『遭難者 不帰に消える、不帰再び 』 折原一



遭難者 不帰に消える、不帰ノ嶮、再び
          笹村雪彦追悼集 折原一


この本は一言でいうとミステリーなのだが二部構成になっており、分冊となっている。第一部の体裁は完全なる山岳遭難追悼集となっている。つまり一見すると小説にはなっていないのだ。最初から最後まで山岳遭難追悼集として、ある山岳会の代表挨拶、計画書、メンバー構成、遭難タイムライン、天候、地形図、遭難原因の分析、遭難者の追悼、今後の方針等完璧な構成だ。ただし、そこは小説であり、読んでいくうちに、どこかがおかしいと、疑問が湧いていくように設定されているのだ。それがなにかは第二部を読まなければ分からない。ミステリーだから書くことは出来ないが、全体を通して言えるのは、舞台設定が現実の後立山連峰の白馬岳から唐松岳にかけてのルートであり、山小屋なども実在していることだ。作者は実際の追悼集をヒントに書いたという話だが、相当にこの山域を登っていなければ書くことはできないのではないだろうか。参考資料を集めてだけでは、話に矛盾や齟齬があらわれかねない。その地域を何度か登ったことがある私から見ると、作者は実際に登って描いたとしか思われない。完璧なのだ。
ミステリー小説としては少しものたりないが、山域を知るものからすると非常に面白い。評価は二分するのではないか。あまり知られていない小説だけに、ぜひ読んで頂きたい小説である、