芦別岳 夫婦岩北壁カンテ  1989年

芦別岳・夫婦岩北壁カンテ 北西壁ダイレクト
   
1989年9月14日N~16日
   
コウモリ飛びかう夜の札幌のネオン街に未練を残しながら、単独で車を走らせ山部の小屋に到着する。

9/15 ほぼ一年間本番の壁から遠ざかっていたためか夫婦岩までの登りは。通い慣れた道とはいえひどく遠くそして長く感じる。ある登山家は「山では百八つの数を数えながら歩いている。一から始めて百八まで、それでまた一に戻る」と言ったそうだが、同じ山を歩くにしてもとてもそのような明鏡止水の心境にはなれず、ただ汗をしたたせながら、世俗の煩悩を払うかの様に黙々と歩く。旧道から夫婦沢へ入り、不明瞭な道をたどると失婦岩の基部へ着く。基部の平坦地をテント舞にして登攀開始。

             北壁カンテ核心部の3P目      

北壁カンテ

1P目 SM一TH (35m)V
 右斜上バンドから入口がかぶっているディエドルハ入り、スラブを左ヘトラバースして直上。スラブのボルトに昨年登った時に残したロープスリングがあった。抜け口の草付きは濡れており慎重にこなす。

2P目 TH一SM (20m) IV 
右上気味に登り新しいボルトの部念で行きずまり、そこから左ヘトラバース。ほぼ直上し草付きにはいってビレー。

3P目 TH一SM 
このルートの核心部、THリードで登るものの、北面の岩場のためかハングした右上するクラックは濡れていてフリーで登るには、かなり厳しい。ナッツ、フレンズ一式のギヤで挑戦。鬼に金棒だがそうは問屋が卸してくれず、結局10m位フリーとA0で登った。クサビの所が今回の終了点となる。カラビナ1枚を残置して3P目取付までダウン。さらに2回の懸垂下降で基部に降り立ち、テン場に着くとこの日の行動は終了。
山部の小屋8:15~夫婦岩基部11:15~北壁カンテ取付12:00~3P目登攀終了16:00~夫婦岩基部16:30

北西壁ダイレクト

9/16 昨晩のメンバー間の話し合いでSM一THは、北西壁ダイレクトへ行くことになった。クサイ飯を食べて、早々に行動開始。天気はもちそうだが。肌寒い朝の冷気は、早くも冬の到来を感じさせ見上げる夫婦の黒い壁は威圧的に見える。パートナーのSM氏は悟りの境地なのか、それとも鉄心石騰の心情なのか、静かに登攀具を身に付けている。私は身から出た錆で動きが緩慢になっている。

1P目 (30m)V SM―TH
ジェードル状のクラックから取り付く。クラックを登り左のスラブへトラバース、ほぽ垂壁を直上しバンドへ立つ。

2P目 (20m)IV TH一SM
傾斜の落ちた草付混じりのスラブを登りノーマルルートとの合流点のバンドでビレー

3P目 SM一TH(40m)V
直上しハイマツテラスに出る。階段状の岩を5m程登るとジェードル状になる。その上部の凹角を越え自転車バンドへ。
 
4P目 TH一SM(40m)IV
傾斜の落ちたフェイスを登りデルタ状草付へでる。ブッシュを上部壁基部まで登りピッチを区切る。

5P目 TH一SM(40m)IV
顕著に突き出た天拘の鼻カンテの左側から取付き5M程登ると残置ピトンがある。カンテを右に回り込んで右上、古い残置ピトンに導かれて凹角に入り直上、濯木のテラスでピッチを区切る。

6P目 SM一TH(30m)Ⅲ
大まかなもろい岩を約15M登りプッシュをこいで色梯せたスリングがかけてある濯木へ、ここでローブを解く。
濯木帯の踏み跡をトレースして北峰へ。途中の露岩を慎重に登り立つ。360度の視界を15分程楽しみ下降を始める。中央ルンゼを懸垂下降する。1回目でロープが回収出来ず登り返し回収後、堆石で埋まったガレの中を滑るように下り、基部のテン場入到着。北壁カンテを登掌中のTK-KT-YSパーティにコールを送り所用のあるTHは単独でそのまま下山する。途中6名の入山者と擦れ違い旧道をひたすら歩く。登山口で一息つき車に乗り込むと、十九線の道路から札幌までー直線、隼のごとく帰り着いたのはいうまでもない。 (TH)
 

北西壁ダイレクト取付き7:30-北峰11:4512:00-夫婦基部12:30-旧道登山口15:15