恵庭岳 火口壁ルート試登 1989年

恵庭岳火口壁ルート試登

ああ、落ちる!

1989年12月07日                   

残置ハーケンに騙されてしまった。そして私の打ったハーケン、ボルトに騙される者が出てくるに違いない。
見晴台より下へ降りてぐるりと囲うように高さ50mほどの壁が頂上直下まで続いている。思っていたより傾斜がきつく感じたが、可能性があることを信じて疑わなかった。
見つけた残置ハーケンのラインを登ることにして取り付く。

 

いきなりハーケンを打ちアブミに乗る。傾斜がきついのはいいのだが脆い。
次もハーケン、ハーケン、と連打しアブミに乗る。つまりフリーでは登れないということだ。しかも打ったハーケンは鈍い音しか発せず、ハンマーで軽くたたくだけで動いてしまう。
ボルトを打ち、上向きにハーケンを打った後アブミに乗った途端、ズボット抜けてしまいあっという間に墜落!しかも止まらない!気がついたときには雪の上に仰向けとなって墜ちていた。体の各所を触ってみたが幸い痛いところは無い。
 グランドフォールしたというのに何故ダメージが無かったか考えると、積雪が40cmほど積もっていたこと、ザックを背負っていたのでクションになったことが幸いした。

 



考えていたよりはるかに脆いがすぐに登り返す。
 今度は墜ちたところで真下にキャメをセットし、上にアングルをうちアブミに乗ると動く、動く! ああ抜ける! 下のボルトへ下がろうと思った瞬間、アングルの岩が剥がれた。岩を抱いてさかさまに墜落、岩はビレーしているKSめがけて飛んでいった。
キャメも外れ私の顔面直撃となり、歯が一本折れてしまった。

二回目の墜落も体にダメージは無かったが、心のダメージは大きかった。
6時間近くじいっとビレーしてくれたKSには悪いが敗退とした。
ここに来る前に火口壁の情報を探したがまったく見つからなかったのは、我々のようなバカなクライマーたちが過去にもいたということだろうか。
しばらくしたら我々の残置に騙される者が出るかもしれない。
                                (SM)


恵庭岳の見晴らし台に立つと火口原が大きく開けている。
その火口原を囲うように30m~50m程の高さの壁が立っている。
角度は急で、ほぼ垂直だ。クラックは見当たらず人工クライミングになるのは避けられない。問題は岩質で、ボルトの穴は短時間で開き、打ち込んだボルトはアックスのピックで回ってしまう。ハーケンは顎まで打ち込んでも、アブミに乗りショックを与えると抜けるといった有様であった。結局6時間かけて12~15mを登った時点で両手を上げてしまった。得たものは私の前歯が一本かけてしまったことと、自分たちの見極めの無能さだった。