芦別岳 第三稜  2015年

芦別岳三稜 

見たくないものが見える

2015年06月16日
                                
5/15(金)
2013年6月の夫婦岩北壁カンテ以来の芦別である。前回もヘロヘロで取り付きまでたどり着き、テンションしまくって疲れ果てたのに、また性懲りもなく、さらに困難を予想させる二稜登攀~三稜下降という話に乗ってしまった。
本谷を久々に歩いてみたいし、厳しいアルパインクライミングは最後かもしれない、という思いがあるのは本音だ。15:00札幌を出、山部に17:30着。
夕食中より雨が降り始め、明け方まで降っていた。

          芦別岳本谷からリッジに上がる

5/16(土)
4:00起床、直ぐにテントをたたみ旧道登山口へ向かう。
幸い雨は降って以内のはラッキー、このまま一日降らないといいのだが。
登攀具と水、冬装備はやはり13~14kgくらいはあり高齢者の身には重い。
5:00 h436m 歩き始め、直ぐに旧道で一番の難関の高巻きとなり、汗が吹き出てくる。ここを過ぎても楽にはならず歩きにくい河原歩きとなる。一人ではないので休憩することなく夫婦沢を通過、6:36 h628m ユーフレ小屋到着。
そういえば夫婦沢のあのひどくガレた登山道が、右岸に新しく開かれたらしい。
これはとてもクライマーにとってうれしいニュースだ。
10分ほどの休憩でユーフレ本谷へ入るが、雪解け水量は多く、渡渉は慎重にならざるを得ない。飛んでわたるが、荷が重く振られるし、落ちたら悲惨になるのは言うまでもない。

何とか雪渓が谷を覆う地点に到着しアイゼン、ハーネス、ピッケル等を装着する。
特に今日のために買ったわけではないが、新しいグリベルの12本爪は15年ぶりのアイゼンなのでうれしい。ゴルジュにはまだ雪がたっぷり残っているので難なく通過。
次第に良かった天気が悪化し始め、いつの間にか辺りがガスで見えなくなった。
そして憂慮していたこぬか雨に変わり、落石や雪崩に気を使いながら進む。
インゼルを通過、中の島を通過してまもなく二稜と思われる尾根に到着する。

9:36 h1156m 二稜取付き(本当は三稜取付きだった)
視界が非常に悪い為、疑いもなく稜に突き上げるルンゼを登り、尾根に出て準備を行う。1,2Pは平凡な草付きであまり覚えていないが、ブッシュだらけで難しくはない。
10m先はガスで見えない為、こんな感じで続いて行くのかと思われたが、現実はそんなに甘くはなかった。
3Pはトラバースの後の5~6mのほぼ垂壁がホールド、スタンスはあるもののもろい為、注意が必要だし、プロテクションも取りずらい。
ここの岩は全てが動くように思われ、騙し騙しのアルパインテクニック、いわゆる経験というやつがここでは必要になるのだろう。

 

            脆いリッジは緊張の極みだ

4,5,6Pは草付きであまり覚えていない。
かといってやさしわけでもなく、ブッシュだらけのルートはあれこれ引っかかるので、次第に消耗していく。スタカットではブッシュの抵抗の為、ロープの流れが非常に悪く、見とうしの利く場面ではロープなしで行動しないと時間が思った以上にかかる。
このあたりでGPSをチェック、どうも二稜にしては違和感があるので、HNさんと話し合う。二人で頭をひねるが、両サイドがほっとんど見えないので結論は出ない。
間違っていてもいまさら降りるわけにはいかない。
そのうち晴れたらわかるだろうと再び進む。
7Pであると思うがトラバースのホールドが非常にもろい為、落ちると相当振られるので慎重な動き。HNさん、私と一気に通過するが、M君は非常に恐ろしかったらしく、どうして二人は平気で渡れるのかと聞かれたが、別に恐ろしくはない、ただ落ちたら終わりだなと思いながら行動できているからなのではないか。
そのうち彼もそうなるに違いない。やはり場数を踏まなければならない。

8,9Pあまり覚えていない。
雨が止み、次第に視界がよくなりはじめ、見たくないものが見えてきた。
右に遥か向こうに本峰がはっきり見えた、ということは、右に見える稜はやはり二峰であり、左は四峰、そしてここは三峰ということだ。時間はすでに14:00を回っており、高度も1400mであるということは、登り続けるしかない。
あと高度差200m、時間のかかるスタカットは止め、少し危険であるがロープを外してスピードを上げることにする。
両サイドが切れている為、落ちたらアウトなので慎重な動きが必要だが仕方がない。

私は体力の限界を越え、やっとの思いで力を振り絞り、M君はピッケルを落としたり、動きがかんまんになってきた。
おかげでその間休めたので良かったが、元気なHNさんは待ち遠しいそう。
フリーで動いた最後の5Pくらいはもう直ぐ稜線に出ることがわかるので、天気のよくなった夕日の中、非常に楽しい気分になった。
直接雲峰山頂上に出るというのも、苦労したあとのお駄賃みたいで良い。

15:50 h1562 雲峰山頂上
何んとほとんど7時間ではないか、山と谷では3~4.5時間になっていたので、あれは恐らく実際に登っていない人間が書いたのか、雪が積もった時期の記録だろうという話になった。全体にブッシュはわりと信頼置けるのに対して、岩はもろく気を使う。
易しさと、難しさが交互に出てくるので、最後まで気を抜けなく面白い。
二稜、四稜も見えていたが、似たような印象を持つ。

自分の体力を超えるクライミングで二人に迷惑を掛けたが、おかげで近年にない充実感を味わうことが出来た。今後このようなアルパインクライミングが出来るかわからないだけに今回は充実感に満ちていた。最近は、あまり登られた記録を見かけないが、北海道の登攀らしい猛烈なブッシュと脆い岩のルートなので皆にぜひ登っていただきたい。
新道の下りは快適なはずなのに、体力を使い切った私は他の二人より30分以上遅れてしまい18:27新道登山口着。  
                                (SM)

          ユーフレ小屋手前の丸木橋は最初の核心か?