剣岳~立山三山縦走 2013年

室堂~剱岳~立山三山縦走 2013年

2014年9月3日~8日

前回8月の穂高以降の天候は極端に悪く、広島、礼文島の土石流被害に代表される局地的降雨が続いているため、計画の実施は、各地の皆さんが大変な思いをしているこの時に、俺が単なる遊びの山になんか、北海道からわざわざ出かけても良いのか?と考え込む日々が続いたのだが、そうは思いつつ山は私を呼んでいる。
高齢者である私が剣岳にいけるチャンスはそうないし、もしかすると二度とないかもしれない。と自分に都合の良い結論を出し山行計画は練りに練って完璧なものが出来た(はずだ)。問題なのはもちろん天候だけである。
前線が日本列島に居座り、豪雨被害が異常に多発しているので、先の見通しは実際に行ってみなければ、まったくわからない。そんな博打みたいな計画は実行された。

テレビの天気予報はあいまいなくもりを伝えていたので、山は良くないだろう。
時間の余裕があるので停滞は出来るが、それも何日に及ぶと後立山縦走に移行できるか今の時点では不明だ。10日間雨が降らないということはないだろうし、疲れも出てくるので全行程がこなせなくても最低限剣岳には登りたいものだ。

6:12 電鉄富山駅を定刻に発車し館山駅に向かう。
ローカル私鉄線路沿いは、北海道にはありえない歴史を感じさせる山陰の田舎らしさに溢れているので面白い。旅の面白さもなかなか良いものだ。遠く立山方面の山は雲で覆われているので雨かもしれない。
7:16電鉄立山駅から傾斜の極端に大きいケーブルカーに乗り換え美女平よりバスで室堂に向かう。立山アルペンルートとして名高い高原観光のメッカは上高地と対をはるだけに、まさに観光客と登山客で溢れている。

       思わず大丈夫か、と言いたくなるほど急傾斜

先月の上高地より明らかに人が多いのは時期のずれだけではないかもしれない。
08:30それでも室堂ターミナルから別山乗越へ足を踏み出すと、途端に人影はまばらになりほっとし、硫黄ガスの匂いがきつい登山道を前進。
ミクリガ池、雷鳥荘を通過、雷鳥坂の登りとなった途端足の動きが鈍くなり、なんとなく頭も痛い、あれ、高度の影響かと疑ったが、まさかね2,200mで出るわけはない。
単に自分のパワーが足りないだけのことであろう。前後に数パーティーいるだけで北海道のような静かな山となる。
雷鳥沢キャンプ場にもテントが数張りしかないのには少し驚いた。
かつて見たテントで溢れんばかりの写真は夏季休暇限定の姿かもしれない。
情けないことに息も絶え絶えになりかけた10:30頃別山乗越に到着、目の前に剣岳が現れるはずなのに、乳白色の濃いガスが吹き付けてくるだけである。
休息することなく剣御前をトラバースし剣山荘へ向かって前進。
途中よりガスは雨に変わりまもなく11:30剣山荘に到着する。
真新しい小屋は北穂高岳小屋とは比較にならないほど立派でシャワーすらあるのには驚いた。

             剣山荘から別山方向

到着してまもなく雨は土砂降りとなり、小屋の周りは何も見えない。
食堂で行動食のおにぎりを食べながらテレビの天気予報を見るが、どうも良くはない。
13:00頃になると剣岳からの下山者が続々と到着してきた。
午前中は雨になっていなかったので下山の最後だけ濡れたらしい。それでも登頂できたので表情は皆明るい。自分もそうありたいものだ。
頂上近くは傾斜がきわめて強いので、濡れたスラブは危険極まりない。 
雨は夜になっても止む気配はなく、時折ひどくなるばかりだ。
駄目だとは思うがあすにわずかな希望を抱いて19:00寝る。

9月5日停滞
3:00目覚めると雨の音が激しく聞こえてくるので再度寝る。6:00状況に変化はなく今日いっぱい雨に間違いなさそうで停滞だ。と言うことは計画の見直しとなるし、二日停滞となると後半の後立山は中止だ。しょっぱなからこれではガッカリするが、まあ仕方がない。
遠方より来る高齢単独登山者のポリシーは無理をしない、これにつきる。
食堂で弁当にしてもらった朝飯を食べ、部屋に戻る途中、玄関で支度をしている人々が数人居るので聞いてみると、天候の回復に期待してとりあえず登るとのこと。
剣岳別山尾根はただの従走路ではなく、垂直に近い鎖場や微妙なトラバース、寝てはいるがスラブの一枚岩が連続するので、雨ではきわめて危険になるため、よく行く気になるなと思ったが、あすは下山で今日しかチャンスがないのかも知れない。無理をしないでと心の中でつぶやき見送る。自分の計画も今日一日で予備日を使ってしまうのだから、急にタイトなスケジュールになってしまった。

①室堂~別山尾根~剣岳~立山~室堂
②扇沢~爺ガ岳~鹿島槍ヶ岳~五竜岳~遠見尾根
のうち①は2~3日停滞しても必ず登ろうとは思うが、②は起伏も大きく適度に厳しい岩稜が続くので、さらに停滞は出来ないし、エスケープルートもそれほどない。緻密で完璧な登山計画もたった一日で瓦解しそうだ(世間では身の程知らずの無謀行為と言うらしい)
暇である、何もすることがない、食堂にある雑誌の類はほとんど読みつくしても時間はたたない。前夜ぐっすり寝ているので昼寝も出来ない。
私は停滞するとろくなことを考えない性格なので、浮かんでくるのはガレ場で石につまづき転倒するとか、落石を受けて転落するとかマイナスなことばかり。
雨はさらにひどくなりつつあるお昼過ぎには、室堂からの登山者が雨の中上がってくる。

      雨の中を剱岳へ向かったパーティが戻ってきた


そして朝方剣岳に向かった数パーティが引き返してきた。
話では、一服剣を過ぎるまではどうということはなかったが、前剣の上りの壁がずるずる滑り、とても前進できる状態ではなかったらしい。
まあ事故もなくよかった、聞いた話では前日鎖場で遅いパーティを追い越そうとして転落した事故があったらしい。幸いにして怪我で済んだが、普通ここで落ちたらアウトでしょう。晴天の下、フリクションの良く効いた岩を快適に登りたいものだが、どうだろう。それにしても暇である、まさか明日も雨なんてないだろうなと悪いほうに考えが行くのは困ったものだ。
夕方になり天気予報は急速な天候回復を伝え、実際に晴れ間が見え始めたのでうれしくなる。しかし南にある薬師岳の沢では二人が濁流に流されて行方不明になっているとテレビニュースで伝えており、停滞している登山客は皆人事ではない表情で見入っていた。
夕方になると山小屋は停滞した人々と、本日上がってきた人々で定員に近い100人近くは居るし、剣沢小屋からも上がってくるので、明日の出発は予定の5:30を繰り上げて4:30に小屋を出ることにした。   

9月6日
4:30真っ暗な中ヘッドランプをヘルメットに装着し小屋を出てみると、すでに一服剣に向かって光の列が点々と10個くらい見えている。いやずいぶん早く出発した人達がいるものだ。カニの縦ばい、カニの横ばいでの渋滞を避けるには早立ちが絶対条件であるが、一時間くらいは暗闇をヘッドランプを頼りに進まねばならず、ルートを見失う恐れもある。
小屋を出て5分が過ぎたとき突然カメラを小屋の玄関に忘れてしまったことを思い出し、急遽小屋に戻った。カメラは玄関に置いたままそこにあった。
 いや、良かった、あまりに気持ちだけが先行するとこんなことになってしまうという見本みたいな出来事であった。反省!
ともあれ、一服剣を過ぎる頃より次第に明るくなり始め歩きやすくなる。
前剣の手前の大岩より鎖の連続となるが難しくはなく、非常に快適である。
ここ剣でもヘルメットの着用が進んでおり、4割の登山者が装着しているようだ。
落石はもちろんのこと、滑落、転倒でも頭部を守るのに非常に有効なのは言うまでもない。
前剣頂上に立った瞬間朝日が当たり眩しい、立山連峰も眼前に広がり気分よし。

  ここ剱岳では上りと下りが一方通行になっている箇所が数か所ある


ここ剣岳別山ルートの危険箇所の何箇所は、他の山では珍しい上りと下りの一方通行が実施されている。縦走する人はきわめて少なく、ほとんどの人は頂上までのピストンになるし、すれ違いは結構危険なため設けられたのだろう。
それでもひどいときは、カニの縦ばい、カニの横ばいでの2時間~3時間以上待ちもあるらしいので、自然と進むスピードは速くなる。
全体にスピードは遅く、高齢者の私でも遅れをとることはなく前進する。
先手必勝は一般ルートでも、クライミングルートでも絶対的原則だ。
要所、要所に案内プレートが親切に設けられているのだが、ところが、標識を良く見ないで上がりから下るやつも居れば、下りから上るやつもおりなんだかめちゃくちゃだ。
カニの縦ばいに到着するとすでに4人が取り付いており、二人が基部で待機していた。
お先にどうぞと言われたので遠慮なく登らせいただく。
取り付いてみると赤岩の西壁正面と同じくらいか、むしろ寝ている。
そこに鎖が下がっているし、ホールド、スタンスも豊富にあるので、緊張していたならば誰でも登れるし、ここでの事故も意外に少ないらしい。
考えてみればどんな山でも本当に危険な場所より、核心を通過した後に気の緩みが起きるためにおきてしまうのだ。
高さがあろうとも、低かろうとも落ちればただ事ではすまないのは一緒である。

        カニの横這いは最初の一歩が怖い

あれ、核心はこれで終わり? どうやらあとはガレ場を歩いて5分で頂上に到着、頂上に登ったと言う喜びはあるが、槍ヶ岳に登ったときのような物足りなさが感じられた。
比較するのもどうかと思うが、前回の南岳~大キレット~北穂高岳~前穂高~岳沢のほうがわくわくしたし、充実感も大きいのは緊張感の連続であったからであろう。
ここ剣岳は本当に緊張するのは数箇所しかない。
もっとも、事故は緊張する場面では発生しておらず、ただのガレ場や何んということもない下りで転倒、転落となる。油断は禁物である。

            手製の標識が何個もある

6:36以外にあっけなく頂上に到着
上からの景色はいがいと視界が利き、立山、槍、穂高、富士山、白馬、そしてこのあと予定している~爺ガ岳~鹿島槍ヶ岳~五竜岳方面も良く見える。
剣岳の標高は難しさで一位二位を争うのに2,999mと冗談のごとくたったの1m足りないらしい。皆で石を持参し盛って3,000mにすれば良いのにと考えてしまったのは、多分私だけではないだろう。そんなつまらないことを考えているうちに続々登ってきたので30分ほどで下山にかかる、すぐにカニの横ばいへ入るが、確かに鎖に頼りきり壁にへばりつくと足元が良く見えないので、動けなくなる人がいるのも無理はない。
壁から体を離すと、立派な削られたスタンスが続くのでまったく困難ではない。
梯子を下降すると下から続々と上がってくるのを見て早立ちは正解である。

     雪と岩の殿堂と言われるだけあって誠に堂々としている

8:40剣山荘で一時間ほど休憩し剣沢キャンプ場経由で別山乗越の剣御前小屋へ向かう。
剣沢キャンプ場から見上げる剣岳は、威風堂々としていて格好がよい、槍ヶ岳や穂高のどの山よりも「岩と雪の殿堂」と称されるくらい迫力がある。
11:30剣御前小屋
昼過ぎにヘリコプターの音が近くで聞こえていたが、100m上の別山で倒れた人のピックアップだった。残念ながら病気で亡くなったらしい。
そのほかにも後立山の爺ヶ岳で40代の男性単独登山者が心筋梗塞でやはり亡くなられたとのニュースが飛び込むし、薬師岳では京大の学生が、昨日の雨の中行動中に流された二人死亡していたとの報に接し、気持ちが少し萎えてしまう。
夕方より霧雨が降り始め、明日の午前中にかけて天気は良くないとの予報。
 剣御前小屋の雰囲気は穂高方面に比較ししゃれっ気のない作りなのであまりうれしくない。寝床だけは二段ベッドではなく大部屋なのでゆったりしている。

9月7日朝目覚めると霧雨であった。すぐは出発せず様子を見るが変化はなく6:00に別山へ向け歩き始める。ほとんど人影は見られず、ただひたすら登山道を行く。もちろん景色は乳白色のガスだけで何も見えない。高低差があまりないので歩きやすいのだが、つまらない。大汝山着に到着する頃より雨はやみ歩きやすくなる。この稜線は3,000mを越えているので本来絶景であるはずだし、日本で初めて認定された氷河が見えるのだが残念至極である。

    雄山神社では神主が安全登山祈願の祝詞を上げてくれた

      雄山のてっぺんには雄山神社があるとは知らなかった


雄山頂上神社に着いた途端ガスが晴れ太陽が姿を現し、今まで社務所の中で行っていたお祓いを頂上の神殿で行うことなり、順番を待つことなく最初に受けれたのはラッキー。
まったく信心深くない私でもなんだか神聖な気分になり、剣岳の頂上に立った時よりうれしくなったのは何故か。神社でお払いなんて退職する前の会社で発寒神社でやって以来だ。拝礼が終わり、社務所に向かうと百人くらいの登山者が拝礼のため並んでいたのには驚く。ラッキーであった。
下山にかかっても無数の登山者で雄山~一の越小屋の登山道は溢れかえるばかりだ。ツァーパーティは30人、40人単位であるし、登りも、下りもなんだかめちゃくちゃなカオス状態である。

今までこんな大勢の登山者を見たことのない私は、そのエネルギーに圧倒されてしまうが、順番待ちしているといつ下山できるかわからないので隙を見て追い越すことにした。普通30分以下で降りれるはずなのに、1時間以上かかってしまったのはおそらく400~600人を超える人の群れをかわしてきたからだろう。
いや疲れた、もっとも富士山ではこれ以上が普通なのだろうが、死んでもそんなところにはいきたくないものだ。
山はひっそりと、静かに登ってこそ、充実感がある。
あまりの人の多さと、天候の見通しのなさと、モチベーションの喪失により、今回立てた完全無欠の大縦走計画(?) 室堂~別山尾根~剣岳~立山~室堂~扇沢~爺ガ岳~鹿島槍ヶ岳~五竜岳~遠見尾根はあえなくここ室堂に戻った時点で頓挫した。

11:00 室堂着
しかし、扇沢~鹿島槍ヶ岳~五竜岳~白馬岳の後立山連峰に未練が残る。少なくとも有名な八峰キレットを越えてみたかったが、己の体力の限界はここまで。


岩の殿堂と称される剣岳は、ほぼ独立峰なので別山から眺めた時声を上げるほど恰好が良い。とても歩いて登れるようには思えず、クライミングしなければ危険すぎると思えた。実際には鎖がこれでもかと下がっているし、ホールド、スタンスもガバだらけだ。
とはいえ、油断するとケガでは済まないのはどこでも同じだ。
剣山荘をベースにしたので早朝4:30に出かけ、8:40に戻ってきた。
あれ?と思った。別山尾根はピストンで登ると、超短時間で登れてしまう事実に納得がいかなかった。どおりで登山者がこんなに多いわけだ。
 玄人筋は八峰あたりのクライミングルートを登るし、早月尾根を登ってくるのだろう。
今度は早月尾根に来ようと思っていたが、後立山連峰の縦走に関心が移り2024年現在剣岳には来れていない。