白馬岳~天狗尾根~不帰の嶮~唐松岳 2023年

2023年 後立山連峰縦走 3 不帰の嶮
  白馬岳~不帰の嶮~唐松岳~五竜岳~遠見尾根~神城下山 

2023年7月18(火)~23日(日) 
   
7月18日 (火)
梅雨前線が北陸と東北にかかり、いつ消えるのか不明のまま札幌を出た。
丘珠空港から松本空港行きに乗ってしばらくすると、梅雨前線によると思われる雲で全面的に覆われている。これでは先行き心配だ。
松本空港に近づくにしたがって晴れ間が多くなり、不安はなくなった。着陸して直ぐに白馬村バスターミナル行きのシャトルバスに乗ろうと探したが空港の前には見当たらない?
おかしいなとキョロキョロしているとタクシードライバーに呼び止められた。
うん?タクシーは関係ないのだが。話を聞くとバスがタクシーに代わったとのこと、えっ! そうなの?
どおりで予約確認電話すると「間違いなく来られますね」と念を入れるのでおかしいと思っていたのだが、これだったんだ。
何と、松本空港から白馬村までのシャトルバスを予約しているのが私一人しかいないらしい。一人でも予約が入ったらクルマを出さないわけにはいかないらしい。まさか、一人のために大型バスを出すわけにはいかないので、タクシーを配車したとのこと。はじめからタクシーを頼んだら、何と26,000円らしいので気分は良いが、何も得をしたわけでは無ない。しかし予定より30分早く到着。

行動食を買物し今日の宿である花の郷へ行く。早速風呂に入り、夕食となった。食堂に行くと、広いスペースに、たったの3人のみと淋しい。
登山シーズンなのに、こんなものなのか。本州の人は高くつく前泊をしないのだろうか? 北海道から来ると前泊は避けられないし、食事も楽しみの一つだから良いけど。

7月19日(水)
5:30前日に頼んでいたタクシーが迎えに来た。天気は曇りだが雨は降らないようだ。猿倉に5:40到着、登山計画書を提出し、5:45出発、昨年下山したルートなので様子が分かるので新鮮味はない。平凡な林道を過ぎ、1時間少しで大雪渓末端に着いた。すでに10人ほどが休憩しており、私も軽アイゼンを装着し、雪渓の上に上がった。
昨年、蓮華温泉から五竜岳を目指したのだが、3日目白馬岳を越えたところで土砂降りの雨と強風のために予定を変更し、急遽大雪渓を下山した。
ガスがかかり、風が強く落石の危険を避けるために転がり落ちるような速度で下山した結果、早い時間に猿倉にたどり着いたのだが、大腿四頭筋とふくらはぎに重大な張りを呼んでしまった。翌日の唐松岳への登りは地獄を見ることになった。
コースタイムは6時間と書いてあるので、ゆっくり登れば足を痛めることもないし、うまくすると5時間程度で白馬山荘に到着できるかもしれない、と思った私が甘かった。
大雪渓の上端まではなるほど3時間半で行けたのだが、そこからのガレ場が意外と悪く、そのうえ雨風がひどくなり想像以上に時間を要してしまう。
こんなにガレが多く悪かったっけ? あとで考えると、今年の雪解けが例年よりずいぶん早いという話を聞いて納得した。

    近年温暖化の影響で大雪渓が崩壊するのが早まったらしい

5時間で避難小屋にたどり着いたのだが、ここら辺よりガスがあたりを覆いはじめ、同時に風が出てきた。疲れも重なり休む回数が増え、スピードが全く上がらない。そのうち雨が降り嵐のようになってきた。目の前に白馬山荘があるというのに情けない。
白馬山荘がガスの中に浮かんだときは正直ほっとした。
受付に10分くらい居たのだが、後続者は誰も来ない。難儀しているに違いない。どうも白馬岳では天候についていない。結局6時間50分という遅いコースレコード作った。
ようやくたどり着いた山荘は、宿泊の受付を始めていたのですぐに3階の部屋に落ち着き荷物の整理を始めた。
天気が悪いので本当に何もすることがない。考えるのは良くない事ばかり。
もし、明日も悪天であれば停滞か、下山か、はたまた強硬突破か。
強行突破は自殺するようなものだから、ないとして下山はしたくない。
食後の天気予報では何とか明日から天気が回復し、うまくすると梅雨明け宣言が出るかもしれない、との情報があり安心して20時には寝た。

     白馬岳付近ではいつも雨と風にさらされ何も見えない

7月20日(木)
 今日の目的は不帰の嶮を越えて唐松岳まで到達することだが、昨日の疲れが残り到達できるかは五分五分だろう。
5:00に出るため用意してもらった弁当は意外と大きく重い。
 天気はほぼ晴れ、白馬岳には雲かっておらず、杓子岳、白馬岳槍ヶ岳方面に雲が富山側から長野側へと流れており、上空は晴れている。どうやら天気は急速に回復していくらしい。
白馬山荘を出て一気に坂を下り、大雪渓分岐まで来ると丸山への登りとなる。
このあたりからガスに覆われ先行きが良く見えないが問題はなかった。
しばらくすると杓子への上り坂となり、休憩して振り返ると白馬岳頂上から雲がたなびいており幻想的風景となっていた。まさに、3000メートル級の北アルプスだ。これを見るために、そして岩稜地帯を登るために遠くからやって来たのだ。
坂を少し登るとトラバースへと移るのかと思っていたが、そうは甘くなかった。
何回か上り下りを繰り返すと白馬槍ヶ岳とのコルに6:30到着、そこは人工的に白と黒の砕石を撒いて、杓子岳と白馬槍ヶ岳をはっきりと分けたようになっていた。
面白い、小蓮華岳にも鹿島槍ヶ岳にも似たような地質構造があったが、ここまで露骨に分けられているのは初めてだ。

    強風に吹かれる白馬岳 ヒマラヤの8000m峰のようだ

     朝のガスが次第に晴れていき、今日の好天は約束された 

白馬槍ヶ岳への登りは結構急で疲れそうだ。少し登った6:46に小屋からもらった弁当を食べることにした。中身はゴマをふりかけた日の丸飯に、でかいシュウマイとでかい鶏肉の甘酢煮、あと何か入っていたが忘れてしまった。半分ほど食べて昼のために残した。
弁当を食べながら、白馬岳方面がどんどん晴れていく光景を眺めるのは、まことに至福の瞬間である。あたりには誰もおらず、この日は天狗小屋まで一人も出会わなかったのはハイシーズンなのに不思議ではある。
今年の一泊二食付きの小屋代は約15,000円と一流ホテル並みに高沸した。
コロナで閉鎖していた山小屋も、昨年から再開したのだが、コロナ前とは状況が一変し、相部屋の場合、八人部屋では六人、もしくは四人と定員の半分近くに減らしたので経営的には相当苦しいに違いない。おかげで値上がりしたとはいえ、ゆったりとくつろげるのは高齢者にとっても、女性にとってもありがたい話だ。
7:30白馬槍ヶ岳に到着。やはり昨日の登りの疲れが残っているようで早くは歩けていない。8:00白馬槍温泉分岐に到着。天狗山荘まであと少し。

     天狗山荘は水場もあるし、ルートの要衝に位置している

8:39天狗山荘に到着。一息入れる。
天候は晴れ、風無し。時間は午前8:40である。普通ならここで一息を入れて不帰の嶮を越えて唐松岳を目指すのだが、私は躊躇した。白馬山荘からここまで平凡な道であるにもかかわらず3:40と予定より40分タイムオーバーしている。
どこまでも続く稜線は、穂高連峰にくらべて高さこそ低いが、悠久の永遠を思させてくれる。まさに、天上の楽園であり、そこで遊べる喜びは表現のしようがない。
到着してから約8時間、何もせずただボーっと景色を眺めている。
これほどの贅沢がこの世にあることを感謝しなければならない。
時間に追われる勤労者であった時、このようなことは許されず、いかに標準タイムを短縮するかに命を懸けたのだが、今は朝立ち昼までに到着を厳守する前期高齢者だ。
天狗山荘から不帰の嶮を越えて唐松岳までは、標準タイムで4時間半から5時間に及ぶという。若ければ当然のことに一気に行くのだろうが、私はもうすぐ後期高齢者だ、無理をすると必ずしっぺ返しが来ることをよく知っている。それに、急ぐ理由もない。

      天井こそ低いがとても清潔でキレイ 通路もピカピカだ


小屋の管理人に泊まれるか尋ねると、今日はもう歩くのを止めるのかと不思議な顔をされ、さらにどこか具合が悪いのかとさえ尋ねられた。
無理をしたくないし、ゆっくりと北アルプスの雰囲気を楽しみたいと返すと、何やら納得したようだ。宿帳を書くと手稲山のことを聞いてきたので少し驚いた。
部屋にザックを置いて表に出て天狗池に向かう。なるほど小さいながらも立派な池である。こんな高地にきれいな池があるのは天上の楽園といえよう。
天狗尾根方面に明日の登山道を偵察に行く途中、何やら足元でうごめいている。
うん?なんだろうとみてみると雷鳥親子がチョロチョロしているではないか。
親も落ち着きがないが、子は転がるように歩き回っている。
北アルプスに何回もやって来て、一度もお目にかかったことがないので、これはうれしい出来事であった。
部屋は天井が低く、すぐに頭がつくが、六人部屋に私ひとりと気楽だ。
夕方になっても単独の若者が三人、白馬槍温泉に降りていく中年パーティー五人、そしてテント泊者が三人ときわめて少ない静かな小屋となった。
夕食を頼んだのはなんと私を含めてたったの四人、まさか山小屋でなべ料理が出るとは思わなかったので、少し驚いた。
いままでたくさんの山小屋を利用させてもらったが天狗小屋ほどホスピタリティーに優れた心地よい小屋はないのではないだろうか。夜はなかなか眠ることが出来ない。不帰の嶮通過に問題はなかろうと頭では思えども、やはり内心気になるのだろう。

       山小屋でなべ料理など聞いたことがないし旨い

7月21日(金)
3:30起床。すぐに支度をして玄関に行くと小屋の管理人がすでに事務所に座っていた。
若いけれど使命感にあふれる人物だ。挨拶し、まだ暗い表に4:25出た。
上空に雲一つなく風もない。天狗尾根に上がるとあしもとに雲海が広がり朝日が美しい。
昨日きわめてゆっくり過ごしたおかげで快調に歩ける。尾根の上から天狗の頭、唐松岳、五竜岳、そして鹿島槍ヶ岳まで後立山連峰が一直線上に並ぶ光景は壮観だ。
見ていて飽きることはないが、なにせ不帰の嶮通過が待っている。思ったよりやさしいと思うが、乗り越えねば明日がない。それにしても天狗尾根は高低差がほとんどなく、非常に歩きやすい。

天狗小屋から一時間ほど行くと登山者が三人見えてきた。休憩しているのかな?ずいぶん早くに歩いているなと思って知づくと、高齢者が座り込み、レスキューの若者が二人立っていた。ははーこれは疲労で体調が悪くなりレスキューを呼んだのだろう。
顔色は悪くないし、特に心配ないので声をかけて、すぐにその場を離れて先を急いだ。翌日、唐松岳でレスキューに話を聞いたところ、唐松岳から午後近くに不帰の嶮に入り、天狗の大下りの登りで疲労困憊となったらしい。

              天狗尾根は雲上の楽園だ

5:20天狗の大下りスタート地点に到着。
上から見た大下りは想像していたより複雑で長く見える。傾斜はそれほどないがガレのツズラ折りと、時折鎖場が出てくる。鎖場に危険はないが、ガレとザレ場は長いだけに疲れが出て足を踏みはずす可能性が高く、注意を要する。
 ほとんど休みなく一時間ほど一気に下って行くと不帰キレットに到着した。
眼前に不帰一峰が大きく立ちふさがっているが西斜面をトラバースなので困難ではない。

               要注意の天狗の大下り

ここで後方の大下りを見ると後続の登山者が二人接近してきているのが見えた。
おそらく二峰北峰取付き付近で追い越されるだろう。やはり若者には勝てない。
一峰の下りから二峰北峰の壁が丸見えで迫力満点だ。
下部に二人先行者が登っており豆粒のようだ。壁は寝ているので難しくはないだろうが長いだけに油断は禁物だ。そして雨が降っているとき、ここは通るべきではないのは言うまでもない。壁を見あげている時、後続者の若者に追いつかれ「先に行ってください」と道を譲った。
後を追って壁に取付くがガバホールド連続でやさしい。トラバースは更に足幅を越える幅があり歩いて行ける。

    見た感じでは不帰の嶮そのものだが、登るとそうでもない

         鎖が張めぐされているので下部は10分程度で登れる

ガイドブックに書いてある不帰の嶮は、ひたすら危険と注意を呼び掛けているが、実際には三点支持を必要とされる箇所はほとんどない。だから三級は当然ないので二級程度だろう。それでもクライミング未経験者にとって、結構感じる高度感は恐ろしいに違いない。
無論、経験があっても舐めたらしっぺ返しをくらうかもしれない。
もっとも、岩場よりガレ場、ザレ場の方が数倍危険なのはどこも同じだ。
年寄りは思ったより足が上がらず、けつまずくことがなにより恐ろしい。
そして、若い時のイメージを引きずると、無理をしてしまい疲労困憊で遭難だ。
次第に高度感が出てきて気分的に高揚感が上がり楽しい。
本当にロケーションが最高で体調も良くこの上なく至福の時だ。
最初の斜面を逆S字に回り込み、鉄梯子のステップを越えるとリッジに出た。
なんだか核心を越えた感じがして、先行きそれほど困難には見えない。
基部から10分程度で終わりなのか、鎖場が有れどもトラバースが多くなってきた。

          有名な梯子のトラバースはあっけない

    不帰の嶮上部は左のブッシュ地帯に入り、正面岩壁は登らない

疲れが出てきたため、休憩回数が増えてきてスピードが遅くなってきた。
核心部分の不帰二峰北峰に抜けたのは7:41と天狗小屋から二時間二十分と我ながら早かった。岩場の部分は考えていたよりも短く、むずかしくない。落ち着いて行動する限り事故は起こらないだろう。しかし、天候が悪いとか、疲れている場合に起きるミスは致命的だ。どこでも同じだが。平凡な縦走路に戻ったが、これから唐松岳への道のりに自分の体力のなさの弱点が出てくる。不帰二峰南峰から三峰を眺めるとかなり大きいのでがっかりした。ただ、よく見たら右に大きくトラバースしていくのでほっとした。
私の前後に歩いていた若い人たちは、すでに視界から消え頂上へ達しているのだろう。喘ぎながら、最後の急斜面を登る。
ヘロヘロで唐松岳に8:35到着。天狗山荘より4時間10分と予想していたより早く着いたので良かったが、ここから五竜岳まで三時間歩きたいという気分にはなれなかった。
唐松岳山荘は快適だし、ロケーションもとても良いのでここに泊まることにした。部屋には14時すぎでないと入れないとのことで暇だれしてしまった。
KDDIの電波状況が悪く、アンテナが立たない。しかしドコモは小屋の中にリピーターが設置してある上に、稜線上でも繋がり完璧だ。「電話はやっぱりNTT」の格言は今でも正しい。

         二度目の唐松岳山荘 とてもきれいで快適

食堂で本を読むしか時間つぶしが出来ないが、それも飽きてしまった。
何気なくスマホを見てみると、FDAから搭乗前日の案内メールが来ていた。
ん?前日だって! 慌てて内容を確認すると搭乗日が7/22(土)となっていた。
そんな馬鹿な、と手持ちの書類を見ると計画していた7/23(日)ではなく7/22なのだ。
なんで気が付かなかったのか不明だが、間違いに違いないのであわてて連絡を取るため電波を探してもつかむことは出来ない。時間をかけてやっとFDAのインフォメーションセンターにつながり確認したところやはりこちらの間違いだった。
7/23に変更できないかと聞いてみたところ、可能だが追加料金を20,000円必要と言われて驚いてしまった。7/23はもともと予備日だから早く帰ることにした。
 
完璧(?) であると考えた山行計画書は瓦解したのはなぜだろう?変更のし過ぎか、確認の見落としの原因かもしれない。それでも朝食を食べてから下山に入れば9:00には白馬八方山荘に到着し、10:23白馬駅発の電車に乗り、11:00信濃大町駅に着けるだろう。山岳資料館で予定した本を借りて再び信濃大町駅に戻り、立杭蕎麦屋で昼食、松本駅、バスターミナルから松本空港へと時間的には余裕がなくても大丈夫だろう。
本日梅雨明け宣言が出され、明日も晴天が続くので気は楽だ。
夕食は、ありふれたハンバーグでも一泊二食で16,000円とシティホテル並みに高額

7月22日(土)
先頭から三番目に食堂の前に立ち、一番先に朝食にありついた。
6:00誰もいない玄関を出て一路八方尾根に入っていく。
尾根の上に出ると、昨日越えてきた不帰の嶮、天狗の大下り、白馬槍ケ岳、白馬岳と一直線に見える。梅雨明け十日ということわざがあるが、まさにそれを信じて計画を立てたのは正解であった。そのうえ、いつもなら何個も発生しているはずの台風が未だに日本にやってこなかったのもラッキーであった。

    八方尾根から見た不帰の嶮 眺めたほうが危険に感じる

    相変わらず美しすぎる 観光客がひっきりなしに訪れていた

今年も八方池は鏡のように白馬岳連峰を写し、美しい。
休む間もなく尾根を走るように降りていくが、登山客が押し寄せてくるので避けるのに難儀した。それでも下りは早く、8:10 二時間で八方山荘にたどり着いた。


今回初めてアクションカメラを全行程にわたって使った。
ハイビジョン1080/60fpsでバッテリー四本、モバイルバッテリー10,000mah。
ザックのベルトにクランプを挟み撮影し、時々スマホでモニターしながら確認していたが、想像していたよりはうまく取れたのでほっとした。
オズモアクション初号機なので初歩的ブレ防止だが、考えていた以上に機能は働いていた。
録画時間が4日間で5時間を超えており、8つに分割しても細かい編集はとてもやりきれないのでつなぐだけにした。SNSやYOUTUBEに出すのであれば大変な作業になるだろう。自分が見るだけの記録であり楽しみなのだから何も加工しない。
アクションカメラを物好きなおもちゃに位にしか捉えていなかった自分だが、使ってみるとすべての行動、状況、あたりの風景をとらえており、一分間に静止画60枚が鮮明に映っているので何が起きて、何を見落としたのかが自宅に戻ってからになるが判明するのだ。これは、デジタルカメラでは到底できない。
無論画像としてはデジタルカメラが良いに決まっているのだが、等倍まで拡大しなければそれほどの差は見られないので、デジカメは持たなかった。