芦別岳 夫婦岩 北壁カンテ 2013年

定例山行 芦別岳 夫婦岩

間違っているような組み合わせ

2013年6月22~23日

何事三回目というが、この度入会した新人である私は、札幌登攀倶楽部二回在籍していた過去を持つ、わけありである。
いまさらと思いつつ、年齢的に後がない。例の林先生ではないが、今やらなくてはいつやるんだと覚悟を決め、恐る恐るHN氏へ電話を入れた。幸い、年寄りはいりませんと言われずに目出度く入会と相成って、最初の山行が懐かしい芦別岳夫婦岩となった。
春夏秋冬慣れ親しんだ岩場だが、最後に登ってから既に10年は経っただろうか。
もう既にルート名以外は全てクリアされていて何も覚えていない。今回の目的は北壁カンテ、それも1ピッチ目は右上する人工ルートではなく、正面のフィンガークラックを直上するフリールート。想像するだけで困難さが思いやられる。
今回はバリバリのフリークライマー(勿論アルパインも)であるA氏とおじさんアルパインクライマーであるKS氏、さらに年寄りの私の三人組。なんか間違っているような組み合わせだが、なにせ定例の参加者が私たち三人なので仕方あるまい。

出来るだけA氏の足引っ張りにならないようにしたいが、それは火を見るより明らかに無理。しかも6月23日一日だけの日帰りで、しかも難しいフリールートを登ってから芦別本峰へ登り、新道から下山する計画は青山氏にとって当たり前でも、おじさん二人には情けないことに気が遠くなるような話だ。
しかし、計画は実行に移された、ただ、事前に本峰~新道は無理だべと、おじさん達から青山氏に泣きを入れておいたのは言うまでもない。

6月23日5:00旧道登山口
旧道は最初から高巻きが何度も出てくるのでアルパインクライミングが10年ぶりの私にとって厳しいアプローチであり、しかもユーフレ分岐からの夫婦沢は二年前に旧道~本峰へ登った際うるさいくらい付いていた標識のピンクテープがまばらになっているほど崩壊がはなはだしい。
夫婦のルートよりもアプローチの方が核心じゃないかという冗談も本当に思えるほど危険だ。右岸に新しい道が必要に思うのも私だけではあるまい。北尾根から見る芦別岳本峰は槍ヶ岳に匹敵するくらいかっこいいのだから何とかならないものだろうか。
危いアプローチも何とか乗り越え、夫婦分岐から夫婦岩基部までは残雪が残っており、歩きやすい。

 

芦別岳夫婦岩にてアルパインクライミング5.10c~dというのは修行そのものだ


8:30懐かしい夫婦岩である。クライミングの準備をしつつ問題の北壁カンテ1ピッチ目正面クラック(当会のHN氏開拓)を見上げるが、どう見ても難しそう。

1ピッチ目 9:00A氏リードでクライミング開始。
取り付きから7~8mは従来のルートであり、難しくはない。
しかし、クラックに取り付いたとたん傾斜は垂直になるし、しかも上部には1mを越すルーフハングが待ち構えているのだ。クラックには残置プロテクションは一切ないので、さすがのA氏も慎重にキャメロットでランニングビレーを取り、大また開きの苦しい体勢から一度バック、レストしてから再度ルーフハングに向う。
ハング下部のクラックにもう一個キャメロットを決めたら後はハングを越えてしまうしかない。ハングを越えつつプロテクションを決めることなど到底出来ない相談だ。

当然のことながらハングに取り付いたらバックは不可能。左手はクラックに決めることが出来るが、右手は何もないように見え、左にはスタンスがない。右足のスタンスはあるが、あっても決めると体が左方向に振られてしまう。
それでも、見ていても力が入るような持久力でとうとうハングを乗り越えてしまった。
オンサイトである、さすがとしか言いようがない。
ハングからは旧来のルートに合流しビレー点へ到着。5.10c~dあるらしい。

次は自分の番だ。ハング下までは何とかテンションをかけずに進んだが、既に気持ちはいっぱいになっている。
見上げるハングは、やはり左手のクラックしかホールドがないように見え大また開きで左右のスタンスで取り付くが、体を右に振ることが出来ない。
一度思い切って体を右へ振り込み、右上のホールドを探ったが何もない!
あえなくテンション。ハング下に戻りあれこれ下から見上げるが、下からでは何もわからないのは自明のことだ。
何度テンションをかけただろうか、A0したくてもハング上には何もないのだからとにかくフリーで上るしかないのだ。数え切れないテンションの嵐の後やっとのおもいで突然体がハングを越えた!いや難しかった。セコンドでもこれなのだからとてもリードは無理。A氏に迷惑をかけながらにでも何とかビレー点へ付いたのは幸いだ。
KS氏はザックを背負いながらやはりハングで苦しみぬいて上がってきた。
時間は既に12:28を過ぎていた。

2P目もA氏リード。ことさら難しいことはなく13:15頃全員終了。

3P目もA氏。右上するクラックのピッチは残置もある人工だがフリー化されている。
上り始めて5m程で粘ったが、クラックが湿っていてベチョベチョなのでフリーは無理、時間も13:50となり今回はここで終了。14:20アプザイレン終了。
遅い昼飯を食べ、15:00下山開始。17:30旧道登山口着。

A氏の新車マツダCX-5スカイアクティブ・ディーゼルターボ・スペシャルの帰りの運転は途中まで私がしたのだが、ハングで余程力を入れたせいか右手の中指が固まっていて開かなかった。普段どおりに治ったのは次の日であった。
クライミングに復帰していきなりのハードなルートは身の丈を超える行為だったと思うが、いつの日にか自分でもリードしてみたい。勿論不断のトレーニングが必要なのは言うまでもない。
A氏にとって完登出来なかった不満があろうが、クライミング復帰一発目のおじさんにとっては力を使い果たし、充実した一日となった。


    3P目はクラックが濡れており、時間も限界なので終了とした