芦別岳γルンゼ左股奥壁 富士鉄ルート
アブミを持っていけば良かった
1987年6月11日
ここは1986年より登るチャンスを狙っていたが、なかなかタイミングが合わず、今年のゴールデンウィークでも風雪のため壁を見ることも出来なかった。
6月11日
13 : 30発、なんとなくカゼが抜け切らない感じのまま出発するが念のため解熱剤と卜ローチを購入する。 17 : 30山部着、18 : 15登山口発、
気温はこの時期にしては低く歩きやすい。 19: 15ユーフレ小屋着、平日なので誰も居らず静かで快適な夜がすぐにやってきた。小屋の中にツエルトを張って寝たため暖かい。しかし明日の天気は、予報ではあまり良くなく降水確率50%とかなり高いので心配である。夜は、a米、カレー、ココアで終り、21
:00消灯
6月12日
4:00起床、レトルトごはんにラーメンで終り、4:05ユーフレ小屋発、ゴルジュ手前
はるかより雪渓がびっしりついており、この時期としては多い。
すぐにγルンゼに入るが、落石の巣なので上部へ神経を使い、ゆっくりと上がる。傾斜
がきつくなりガントレのキックステップで指先がピリピリしてきた。アイゼンを用意していない我々はここで滑落すると無事ってことはない。落ちたら恐らく本谷まで一気に落下し、お陀仏だ。時間的に早いので、落石はまだ来なかった。
ガンマルンゼの突き当りに奥壁がある
7:00取り付着、壁を見上げると幅はひろいのだが、高さは想像していたよりも大きく
感じなかった。 8:00登撃開始。しかし、垂壁とバングが連続しているし、岩は非常にモロそうだ。 いざ取り付いたら、とたんに雨がパラパラ降ってきたので雨具をつけビレーするが、雨脚が次第に強くなり、早く抜けないとヤバイ。
1P目、30m V十A0
ボルトが一本打ってある所よりさらに右上へとあがっていく。
12m位上がった所にシュリングが残置してあり、ここでピッチを切っても良いのだが
もう15m程延ばしていく。
2P目、25m Ⅴ
トラバースはかぶっていると、岩が想像以上にモロイので恐い。しかも荷が重いので、どうしても外に振られ気味だ。突然右ルンゼ上部より、すさまじい迫力の落石があり、この後ひっきりなしに続いた。
1P目右上していくが傾斜がきつく人工になる
3P目、35m V十A1
クラックを10m程直上しバングのバンドを右上トラバース。ザックが外に振られ厳しい。その上ピンの位置が意外と遠く落ちたらかなり飛ばされそうだ。第一樺の木テラスへの抜け口はドロハングでホールドが全くなく、アブミを持たない私はフレンズをクラックにかませたシュリングのA1でやっと乗っ越す。
ここは快適そのもののテラスで、ビバークするなら絶好の所だろう。ここで小休止、雨もいつのまにか止み条件的に最高の天候になりつつあった。ここからは五稜のドームも隣の岳友会ルートも良く見え、芦別岳の美しさが良くわかる、
4P目、35m V十A0
テラスを左へ18m位移動し、ジェードル状の左側カンテを直上するが、10m上にはハングがあり、ここへもピンが連打されシュリングが掛かっているが、途中で消えておりルートではない、右上へ移り、依然としてモロい岩をだましだまし使ってゆく。快適だが抜け口はやはり悪い。上がると第二樺木テラスである。
5P目、20m IV+
草付の石がゴロゴロ積み重なったようなフェースで、やさしそうだが、どうしていやらしい。ピンも全く見当たらず一本打つ。このへんより去年登った三角岩を思い出した。これほどハングしていないが、岩のモロさとブッシュの多さは似ている。
壁全体がハングしているので気にはならなかったが、いつの間にか雨は止んでいた。
6P目、25m V、A0
見上げると左上がルートだが右上も可能性としてはあるようだ。ただ抜け口が大きくハングしているのでA2になるだろう。始めから草付のバンドを左上トテバースになるが、壁がかぶり気味なので又々ザックの重さに投げだされそうで冷汗が流れる。 ここも抜け口がドロハングで思い切りが必要だ。バングを越えて左へ回り込み、落ちそうなドロの固まりの上でビレーする。(これは近い内に必ず崩壊するだろう)
7P目、30m V十A0
6P目より傾斜がきつくなるが同じような草付けのトラバース。ここの抜け口は最悪で右壁はつるつるだし、触ると崩れるドロハングしかない。 じっと見つめると5mm位の木の根が2~3本ドロの中にあり、ほじくりだしつかんで一気に乗っ越す。
14 : 50終了。重荷のせいか思い切ったムーブが出来ず、考えていたより時間がかかった。又荷が軽ければ、フリーで登れるかも知れないが、浮いているので、慎重さが必要である。
終了点から垂直に近いブッシュを直上するも、ここで滑ったら墜ちて本谷まで墜落してしまうのでスタカットで6p、180m程登る。 リッジに出たら北尾根まで遥かにあるのでがっかり。約2時間半で旧道に出て夫婦岩をしばし眺める。
グリセードで夫婦沢を下って行く。重荷のせいと空腹のためヨレヨレになって、真っ暗闇寸前19 : 30にユーフレ小屋に着く。
(SM)
最近2024年、富士鉄ルートの右側に1983年7月、第三ルートである『右大凹角ルートⅤA0 7P』が富士鉄ルートの初登者である神原正紀と羽生浩二により開拓されたことを初めて知った。未発表であるとのことなので、ほとんど知られていないと思う。
興味がある方は神原さんの著作『三角点巡りと回想の山々』をご覧ください。
詳しいルート図と記録が載っています。
富士鉄ルートの右のルンゼ状が第三ルートと思われる