カムイエクウチカウシ 1996年

カムイエクウチカウシ山  
    九の沢~カムイエクウヂカウシ山~八の沢
 

1996年名月16日~18日

                 
日高と聞けば、9年前札幌登攀倶楽部に入る前の幌尻で遭遇した熊のことが浮かび、それ以来、日高の山行があっでも(もっとも登攀ではない)さりげなく避けてきた。
その時の恐怖は未だに忘れていないが、力ムエクの魅力はそれを上つた。
問題は、仕事に追いまくられ、ほとんど山に行っていない自分の体力である、あまり白信のないまま山行になる。
 
8月17日
朝起きるとあたりは濃いガスのため視界が良くないが、とりあえず登山口まで行って
様子を見ることになり、走っている内に天気はどんどん良くなり。砂防ダムについた頃にはすっかり晴れてしまった。
遠いカムエクヘの第一歩は七の沢出合いの渡渉から始まる。

            札内川本流は穏やかであった

6:36
すぐに札内川本流へ入る。水かさはいつもより少し多めであるが。困難ではない。
平凡な川原歩きであっでも6年ぶりの沢は気分が非常によい。4~5回渡渉を繰り返し、八の沢出合いで大休止。北海学園大のパーテイが追いつき、八の沢へ入るとのこと。
9:15札内川本流から九の沢に入る。この沢は出合いから傾斜がきつくなり、岩の積み重ねが続くが、難しくはない。

        ロープを使う唯一のゴルジュ フリーも可

            九の沢の核心左岸を登る

ほどなく唯一のゴルジユが出てきた。フリ一でも行けそうだが念のためザイルを出し、
SHがトッブで難なく20mで一段上に着く。
易しいとの返事で後続はフリー。滝の直登は時間の関係でパスし、左岸を高巻くことにする。フリーでも可能だが高巻から沢に下降する際はザイルが必要だ。ゴルジュの高巻を終えたあとは傾斜のある平凡な沢になった。沢の幅はさほど狭くなく明るい。

        ゴルジュ地帯を過ぎると次第に開けてきた

視界がだんだん開け、行く手には九の沢カールが現れた。雪がたくさん残っていると考えていたが、僅かに力―ル壁下にへばりついていただけだった。カールの入り口で大休止しでのんびりしていると、KTがいわゆる[熊のうんこ]を発見。
しかもまだ数時間しかたっていないらしく生乾き状態。皆さりげなく笑いながら羆についで語り合ったものの、それぞれ心中穏やかでなかっただろう。
大休止の後、稜線に向かうため歩き始めると、花の影にあるある1個、2個とあちらこ
ちらにあるではないか、それまで息も切れ切れに休んでばかりいた私の登高スピ一ドは倍速になったのは言うまでもない。 急斜面を四つん這いになって登る姿は、遠くから
見るとやせ細った熊に見えただろう。

   花が咲き乱れ美しいカールだが足元にはクマのうんこが無数にある
 
稜線に出て、ここまで来れば-安心と、一息ついて振り向くと、KTが少し後方のキャ
ンプ跡に着いたところだったそして「熊の掘り返しの跡があるよ」と叫び、無惨にも私
の安堵感を打ち砕いてしまった。
思わず「日高は俺に合わない」とつぶやく。ここから1903m峰合流地点までの約1K
mはハイマツの稜線で軽量の私にとって厳しい。
のろのろ進み16 : 30やっとキャンプ予定地に到着した。すぐにテントを張り、フライを固定しょうと石をどけたら、なんと先人の残した「うんこ」を掴んでしまった。
気落ちした私はすぐにテントに入った。ガスは濃いが風も当たらず静かな夜であった。

8月18日
濃霧の中出発。昨曰同様ハイマツのヤブこぎである尾根を歩き始めて間もなくガスが雨に変わり、それと共に雷が接近してくる。逃げ場のない稜線上を、しかも最高地点であるカムエク頂上を雷雨の中目指すというのだ。もっとも今更戻れるはずもなくその気もないが。

  雷が接近してくる最高地点であるカムエク頂上  すぐそこの稲光と雷鳴

2~3分おきに雷が発生し、光った後の轟音間隔が次第に短くなり、細い稜線上では生きた心地がしない。音速は一秒間で340mであることを中学校で唯一覚えていた事を思い出し光るたび計算する。心中は「やっぱり日高は俺に合わない」と今更ながら思う。
それでも時間は過ぎて行き8:05ピークに到着。雷雨の中記念撮影する我々はアホじゃなかろうか すぐにリッジを下降はじめ、50m程下ったところで踏み跡が消えている。どうやら南西稜に入ったらしいので、引き返し、南東稜を転がるように下降する。20分で最低コルヘ着き、八の沢カール目指しでドロドロ道を転びつつ降りる。ようやく安全地帯にたどり着きこれで「雷で死ぬことあないべ」。 キャンプ地に着く頃より、雨はますます激しくなり、これでは沢に入っても増水して無理だべと、しばし様子を見るためテントを張る。

土砂降りの雨なので下山を諦め八ノ沢カールにテントを張る

この時、出会った中高年パーティが雨の中降りると言っているので、我々は停滞すると伝えても気が変わらないらしく降りていった。雨は強弱を繰り返すが、やむ気配はない。
こんな状態では札内川本流を渡れないため、今日中の帰札はあきらめざるを得ない。
無線で帯広の人とコンタクトがとれ、細川宅へ電話を依頼し職場に休暇願いを家人に伝える。
あとは行動食をちびちび食いつないで天気の回復を待つだけだ。
しばらくしで無線でおかしなことを言っている。八の沢で事故が起きているとのこと。
一昨曰起きていた事故は昨日救助されているはずなのだが?
あらためて確認してみると、なんと先ほど起きたばかりらしい。転落者が出て動けなくなっていると無線でエマージェンシーを出したまま連絡が取れないと言っている。それはすれ違いに降りていった先ほどの中高年パーティだ。
無線で連絡を取っている内に雨が上がってきたので、さっそく下山とし、事故現場に急行する。12 : 20事故現場到着。事故者はテナントの中に収容されており寝ていたが、

        自衛隊の小型ヘリが沢の中に突入してくる!

それ、ほど重いけがではなさそう。しかし自力下山は無理のようだ。
無線ではヘリが向かっていると言っているがなかなか現れない。 現れても今度は
こちらの場所が分からないらしく、はるか向こうを行ったりきたりしている。
30分程でこちらに気が付き、やっと八の沢上空に入り旋回を始めた。
自衛隊の小型のヘリでどうするのかと思っていると、驚くことにどう見ても降
りる場所はない狭く急傾斜の沢に降下して来るではないか。
水の流れる岩場すれすれ20センチくらいでホバリングし、しかもローターは回りの木々とすれすれで、ときどき枝を払う程だ!

         岩場すれすれ20センチくらいでホバリング

      遭難者の様子を聞いた後上昇し、大型ヘリがやって来た

降りる場所はないし10センチずれると墜落間違いない。一名の若い自衛官が降り、事故者の様子を聞いている。少しあとに大型のヘリがきてつり上げると言い残し再びホバリングしているヘリに乗り込み上空へ上がっていった。
まもなく大型のヘリが到着し、事故者をつりあげて収容、ヘリ部隊(3機編隊)は視界
から消えた。まるでアクション映画を見ているような見事なテクニックであった。 

 帯広の駐屯地からやって来たUH-1Jは13人ノリの大型ヘリ 私も乗せてほしい

時刻はすでに15 : 30となっており、下山の可能性があるぎりぎりの時間だ。
明日は休みの申請をしてしまっているが、間に合うならば今日中に帰りたい。
飛ぶように八の沢を下る。途中の大滝は高巻に入るのを間違え、まっすぐ降りてしまい、少々こわい思いをしたが ザイルを出すほどでもなかった。八の沢出合に着いたのが17 : 30大休止。九の沢、八の沢出合いに到着。17:45札内川に入る。日はすでに落ち、暗闇になるまであと一時間くらいか。
 
水量は来たときより10~15センチくらい多い。これ以上増水していたらとても下ることは不可能だった。水流の下が暗くて見えづらく、足を滑らせたならば遥か下流まで流されてしまい、三途の川を越えてしまう。渡渉を慎重に繰り返す。ザイルを使って渡渉した後ヘッドランプを出し中州を左へ大きく曲がると車のヘッドライトが見えた。
  「おっ七の沢出合いだ!」
 あとは股までの渡渉を2度で到着。いやはやつかれた。