赤岩 ベルギー岩大チムニー 2020年

ベルギー岩 大チムニールート

今迄やってきた事は何なのか?

2020年10月11日
                

ベルギー岩に誘われた時、5年前ガッカリ岩から眺め、いつか行くことを話し合った事を思い出し、やっとのぼれるチャンスが来た。
6級マイナだから、ハングしていても登れると楽観的であった。もっともリードではなく、フォローではあるが。
峠で待ち合わせ、やって来たTKさんのパートナーはIさんという背の高い女性でかなり登りそう。話を聞くと、何と利尻山西壁ローソク岩Bフェース正面に冬も秋も取付き、残念ながら敗退したと話してくれた。凄い女性なのである。
これでは我々老人の出番はないし、せめて足を引っ張りたくないと思うがどうだろう。峠から赤岩山頂上まであるき、下り口忘れてしまい探すが、情けないことに迷った。
ブッシュに足を取られ七転八倒、下降していくと、先行パーティーが努力岩に取り付いていた。

            中央が大チムニー

11:00  三つの岩塔で初めて人を見た。
11:38大チムニー取付き着。早速Iさんリードで1ピッチ目登攀開始。
見るからにボロそうな壁は正しく脆い。
訪れる人は稀なのかここを登ったという人には出会ったことが無い。少し遠いのと、ハングの大きさ、岩質の悪さにためらうのだ。
私達も同じくためらってきたが、今まさに取り付いている。
セコンドのTKさんが登ってから、何やらアンカーの設置で時間がかかった。後で聞くと信頼できる残置が無いのでカムを追加し、更に上方にもう一つアンカーを作ったという。狭くて脆い場所で、4人いるのだから当然だが時間はかかる。TKさんリードで2ピッチ目12:30開始。ジリジリとチムニーを上がって行くが、パラパラと落石が発生し、遅々として進まない。

       ワイドクラックはグレードを超える難しさがある


脆く、狭いチムニーはバックアンドフットで難しい動きが要求される。
それでも彼女は持ち前のパワーと持久力、そして精神力を発揮しハング下まで到達。
ハングを越えても易しくなる様子は少しもみられず、そこからも時間はかかる。
姿が見えなくなって13:20アンカー到達。
セコンドのIさん開始。背が高く足の長い彼女はためらうことなくフォローしていく。慎重かつ大胆にハングを越えていった。13:40
次は私である。取り付いてみると壁はやはり脆く、チムニーでの体勢は頭をひねる。
バックアンドフットで支え、落ちないが進まない、進もうとすると落ちそうになる矛盾を抱え遅々として進まない。それでももがきながらハングまで到達し休憩。
体勢はよくわからない。あれこれ試しつつ出口に向うが、すでに腕はパンプしてしまい、あっと言う間に墜ちテンション。

心拍数が上がり、げろを吐きそうになったが、下にいるKSに頭からかかるので我慢する。そしてしばし呼吸を整える。
もうフリーでは登れそうもなく、A0が恥ずかしい気持ちも躊躇いも無い。
ハングを抜けたとはいえ、やさしくはない。
腕力はすでになく、ヨロヨロと格好悪く彼女らの待つアンカーに到着。14:09
楽しげに会話している二人の前に、70才の高齢者が荒い息でセルフビレイを取る。
いや、本当に6級?なのか?
そうだとしたら今迄やってきた事は何なのか?
5年前の北壁カンテの5.10dクラックを思い出した。
あの時もルーフハングを超えられず、数知れないテンションの嵐でやっと越えることができたが疲れ果てた。
自信を失いそうになりながら考えた。アルパインクライマーとしてバリバリの二人でさえ苦労したのだから、自分としても限界だったのだ。
これはこれで良いのかもしれない。ギブアップしなかっただけ良かった。
たとえ前腕のパワーをこれからつけることが可能なのか?加齢のスピードに勝てるのか。まあ、そんなこと考えていたら何もできないだろうが。季節は晩秋に入りつつある今、時間切れかもしれない。来期、出だしが肝心なのだが今年のようにコロナが残っていれば無理か。

15:32終了。長く厳しい1日が終わった。1日かけてたったの1本とは。
彼女たちはThe Fore playへ向かい、我々は帰途へ。峠16:20。
峠にはHN、OK、T、Yさんら中央パーティーごまんといた。
オールドボーイ(平均年齢70才を越える) の大集合だ。
クライミング渡世から抜け出せない前期高齢者は他にやることがないのだ。
自分に残された時間はどのくらいあるのだろうか?



私が行く岩場にワイドクラックは、ほとんどない。そのためベルギー岩の大チムニーでは6級-にもかかわらずテンションの嵐となってしまったのは隠せない事実だ。
クラックにはまり、落ちないが動けない、動くと落ちるジレンマは老人にはきつい。
後日、小川山でガイドさんに聞いたところ、ワイドクラックはグレードでは判断の出来ない難しさがあるとのことであった。