西穂高岳~ジャンダルム~奥穂高岳縦走 2025年

西穂高岳~ジャンダルム~奥穂高岳縦走  2025年9月5~7日

北アルプスへ通い始めて最後に残ったのは西穂高岳から奥穂高岳への縦走だ。さまざまな情報を見ても、国内最難関の縦走路との呼び名も高く、単独では入るのを躊躇していた。後立山連峰の縦走も納得のいく山行ができたし、裏銀座縦走もとりあえず終了したので、残していたジャンダルム経由の山行は最後課題だった。
現役でクライミングをやっているので技術的な課題はおそらくないだろう。問題は体力だ。西穂高山荘から奥穂高岳山荘へは標準的に10時間となっている。老人の私ではどのくらいだろう?疲れたからエスケープしようにも天狗沢ルートは通過禁止だ。時間切れになったらビバークして、自力下山が可能と伝えても間違いなくレスキューヘリが向かってくるに違いない。それだけは避けたい。二か月前から予定は組んだが、困ったことになっていた。一週間前から天気図を見ていたが、予定した日に台風15号直撃しそうなのだ。発生からあっという間に北上し、9月5日朝には東海地方を東進していた。気圧はそれほど下がらず勢力は強くない。そのため風も強くない。典型的な雨台風らしい。


北アルプス直撃まぬがれたが雨は結構降っており、西穂山荘へ向うなか雨はやまない。スピードが相当速いため、もしかすると明日は回復しそうなかんじだ。


同室になった他の人は2人パーティ以外は、ほとんど話をしない。沢山の山小屋では互いに山や、地方の情報をしていたのだが、ここでは独自の息苦しさを感じる。聞いた訳では無いが恐らく、西穂高岳~奥穂高岳まででの死亡事故が一月の間に3件も発生した事にあるのではないかと思う。互いの力量など分かるはずもない。
誰がどこで事故を起こすか皆不安なはずだ。話が盛り上がり情が移ったならば、目撃した人のダメージは大きい。そうならないために、相手の事は知らない方が良い。考えすぎだろうか?
でも私でもそう思うのだから他の人も感じているだろう。ましてや私は老人だ、厄介な奴が同時に難コースへ向うのだ。そう思われるのも無理はない。


朝、3時に起きて空を見ると満天の星が輝いていた。予想通り台風はあっ言う間に抜けたようだ。1人は3時には出発、他の二人と私が3:35に小屋を出た。独標までは這松の普通の登山道でヘッドランプでも危険はない。前には三人、振り向くと後ろにも5人以上後続している。いやはや、こんな危険な所がと思う。昨今のジャンダルム人気、西穂高岳~奥穂高岳人気がSNSで盛りあがったためなのだろうか?特にYouTubeでは「危険で大変ですが、充実感がありました!面白かったです」とあるために、初心者でもその気になるらしい。私には信じられないが、そんな人は現実に多いとの事だ。クライミングのノウハウも無く、ノリで登れるものではない。恐怖に震えていてはミスを犯す。一つのミスも落ちたら終わりだ。ここでは転落イコール死が待つ。


4:48独標に到着すると夜が明けてきた。先行する三人が休憩していた。そこで初めて話をした。登山開始から2年との事。どんどん登るうちに、ここにたどり着いたらしい。それも分かる。自分もそうだったから。まず独標から下る所が危険らしい。お先にどうぞと勧められ降りていくがそれ程難しくはない。


6:05 なんだかんだで西穂高岳まではスムーズに到着。若い人はスピードが速いので先行し、私は後をついていく。西穂高岳本峰からはリッジをゆるやかに下り、P1とペイントのあるピークに初心者拒絶看板があった。

 


ハイマツの急な下りはいきなり垂壁15mほど鎖の下降となるが、足場があるので危険を感じない。降りたら足場の少ないトラバース。安定しないガレ場がとても嫌らしい。急な岩峰を登っては降りるを繰り返すので、西穂山荘から穂高山荘まで距離にしてたったの6.5キロしか無いらしい。それに10時間もかかるのだから、時速650mか?
文字どうり這いずり回る登山だ。


7:27 間ノ岳からはさらに急な下降となり緊張する。鎖場は整備されているとは言え、もちろん全てではないのでクライミング技術は当然必要だ。間ノ岳から有名な逆層スラブが丸見えだ。先行する人が登っていたが、難しそうではない、濡れるとツルツルで大変だろうが。7:50 間ノ岳から間天のコルへ下るもやはり気は抜けない。そんな安全な個所は無いし、時間に押されるので休憩する気にもならない。立って水を飲むか、行動食を一口食べるだけだ

 

 

 

7:58 すぐに逆層スラブへ入るが上から下まで伸びた細い鎖があるので一気に登り切る。コルから天狗の頭までが長い。振り返ると間ノ岳から西穂高岳、さらに向こうに焼岳が丸見えで素晴らしい。天気は無風快晴で最高の条件となった。時間はかかるが登り切ることはできるだろう。時間的にみて半分の行程は過ぎたはずだ。それにしてもルートを行く登山者が多い。前に6人、後ろに10以上はいるし、奥穂高からやってくる人も6人はすれ違っている。パーティ編成ではガイドによる3人組がこの日4組はいただろう。単独者も多いが60才以上は私以外に見なかった。


8:12 天狗の頭から天狗のコルへ下るところには長い鎖が2段になってかかっていた。8:45 降りるとすぐ上には避難小屋の痕跡があるらしいが、面倒なので見ないで先を急ぐ。先行パーティ三人は女性を含んでいるが、なかなか早い。

 

体力と気力の核心部は天狗のコルからコブ尾根の登りにあった。それ程難しくはないが、ひたすら長いのだ。体力も使うので、休憩を繰り返し登る、降りてきた人に話を聞くとコブ尾根の頭に出るとジャンダルムが見えるそうだ。ジャンダルムが見えたら完了まで2時間は掛からないとの事。

 

天気は快晴が続き、悪化する様子はない。だから焦る必要もなく動けるのだが、後少しと思うと休んでもいられない。休むのは穂高岳山荘に着いてからゆっくりと休めば良い。
10:24コブ尾根最高地点に着くと、いきなり目の前にジャンダルムが見えた。特に感動はしないが、先の見通しが立った嬉しさがあった。5?6人立っている。ガレた歩きにくい尾根を伝わり、ジャンダルムの側面をトラバースし右上して10:48 頂上に着いた。ここからは来た方向の西穂高岳から奥穂高岳が見渡せる。


ここの名物であった天使の看板は、今年8月に撤去されて無くなり、環境省が作ったと見られるガッチリした無粋な標識が設置してあった。天使に魅せられてやってくる登山者はこれで確実に何割かは減るに違いない。オブジェが目に余ったというよりは、技術が未熟な登山者を減らすのが主な目的ではないかと思った。そのくらいインパクトのあるオブジェだから、また誰かが作って持ち込むに違いない。しかし、そのまま残していくのは違法行為である。映え写真を撮った後は連れて帰るのだろうか?
山頂でふざけた写真を撮るのはもう終わりにしないか? 
映え写真で死亡事故も少なくない。


後はロバの耳と馬の背だけだ。自分的にはロバの耳がこのコースの核心部と思うので慎重に望んだ。ジャンダルムの側面をトラバースし、11:13 ロバの耳の鎖で核心に入る。垂直に下降する部分には鎖がない。壁に対面しながら降りると確実にホールドを拾えるのが、初心者には恐怖が勝り、厳しいだろう。
降り立った後は細いスタンスをトラバースこれは鎖がある。
再び垂直に下降するが鎖があり、しっかり持つと難しくはないが、疲れがたまってきた身には堪える。下調べをして、いけるとの感触を掴んでいたのは正解だ。心理的に余裕を持てたから。


後は馬の背だけだが、登りだから言われているほど難しくない。11:54 半分ほど登ると、上から降りてきた登山者がいたので、通過するのを待ち登り切る。

一月後、馬の背で遭難しレスキューされた単独の外国人が救助した遭対協二名と共にこのあたりでビバークし、翌日無事にヘリでピックアップされた。背景にジャンダルムが霞む馬の背上のツエルト写真は凄味がある。もう少しで奥穂高岳頂上なのだが日が暮れたのだろう。

12:18奥穂高岳に到着し核心部は終わった。
体力の限界を尽くしてやり遂げた満足感は、何物にも代えがたい。

 

 

 

12:50 奥穂高岳に着いてから感じたのだが、穂高岳小屋にあれほど居た外国人はルートには一人もいなかった。それに、おそらく60歳を超える老人も見かけない。三十代から四十代が最も多いようだ。だから馬力が違う。あっという間に置いていかれ、危険個所になると追いつく。この繰り返して9時間が過ぎた。あと一つ気がついたのは、ザックの超軽量化だ。私のパタゴニアアセジヨニスト30の750gなど可愛いもので、ロールアップザックは500gを切るようだ。8年も使うと、あっという間に時代遅れだな。



下山はザイテングラートを5:55から降りていく。
8:00涸沢小屋で休憩。ここでまた違う若者に声を掛けられた。奥穂高岳からジャンダルムに行き、ピークからコブ尾根から上がる私の姿を見たと言う。
来年は西穂高岳から奥穂高岳まで行きたいと話していた。登山を始めて、その魅力に惹かれた若者の大きな目標として西穂高からジャンダルムを経由して奥穂高岳縦走があるようだ。先を急がないで経験を深めてほしいものだ。


ここからは長い下山路だ。石畳の歩きやすい道であったが疲れが出た。
何回も立ち止まり、休んだことか、もう直ぐ上高地だと思うほど遠ざかるような気になる。ほとんど全ての人に追い抜かれ、既に恥ずかしい気にも無い。

 


奥穂高岳山荘から7時間強でようやくターミナルに到着。 動画で始めから最後まで収録したし、下山も吊り橋まで撮ったので、どのように登ったのか、下降したのかが残ったはずだ。

今回は単独ですが「完全収録」を目指してモバイルバッテリーでカメラに電源を供給し、山行時間9時間15分を6時間37分の動画七本として作りました。

youtubeの動画 MT.サバイバル をご覧ください

特に西穂本峰から穂高山荘の行程は完全に収録しました。
「西穂高岳」から「奥穂高岳」まで行きたいと思われるなら冗長で飽きるかもしれませんが、この動画を観ていただきたい。こんなに大変なら行きたくないと思われるかもしれませんが、その場合は是非行くのをやめてください。ここへ行くのを勧める目的はありません。本気で向う人に知ってもらいたい情報を全て盛込み、不安を解消してもらいたい。
単独だから危険なわけではなく、パーティ編成でも、ロープを結ぶわけでは無いので落ちたら確実に死にます。安全に期すためにはガイドをお勧めします。プライドが少し下がるでしょうが、プロガイトは優秀です。顧客の安全を常に考えてくれています。
確かにガイド料は高額ですが、命に替えることは出来ません。
どのくらい大変で、危険個所があり、どのくらい続くのか。人それぞれだが標準的なタイムで10時間から12時間を超える長丁場を30分程度の動画で表すのは不可能。
危険はハイライトだけにあるのではなく、コースの全ての個所にあります。