上ホロカメットク山 化物岩左
ビバ!カミホロ
クライミング翌日のカミホロは晴れた
2024年12月14日
今年2024年、遂に後期高齢者保険証を手にしてしまった。危ないことは、あなたには無理だからやめなさいとの警告書に見えた。体力が衰え脳力は格段に落ちた現在、素直にうけいれなければならないのだろう。とは言え、上ホロカメットク雪上訓練と化物岩への登攀に参加を決めてしまった。昨年も参加したのだが訓練当日12月8日に雨で中止となった。2004年に仕事の都合でクライミングを止めて、定年後、復活したのが2011年とブランクが長い。冬季登攀に限れば1997年2月以来、実に27年間ものあいだアイゼンで壁を登っていない。冬以外ではクライミングを継続しているので、技術的な問題はないと思うが、体力、筋力だけは格段に落ちたのは隠せない。カミホロの冬は厳しい。北西のブリザードに吹かれ、下山に6時間もかかったり、雪崩に遭ったり、顔面凍傷、角膜の傷、指の凍傷とあまり良い記憶がない。しかし、アルパインクライマーとして、冬壁を登らずして語るべきではない事は自明である。たとえ終始セコンドであっても。過去にいくら経験があったとしても現役で登れることに勝るまい。今回は何とか冬期登攀を語れるクライマーになれるように、化物岩左ルートに参加を申し入れた。素直に受入れてくれたHN、TK両氏に感謝。
化物岩は1P目壁、2P目雪田、3P目壁となっている
カミホロの特徴は雪上訓練がやりやすい、多数のルートが有るので訓練後クライミングができる。ただし、時としてマイナス20℃を下回る気温とブリザードに要注意である。マイナス20度で風速が10キロメートル毎時(km/h)の場合、体感温度は約マイナス31度になる可能性がある。風速が20キロメートル毎時(km/h)になると、体感温度はさらに低くなり、約マイナス36度と感じられる。指先、顔面、目の周りの凍傷は油断するとあっという間に罹患してしまう。夏季はボロボロの岩も冬季には固まるので、ダブルアックスが有効。残置は少ない。キヤメよりもトライカムが使いやすいようだ。後イボイボハーケン必須。既設のアンカーとハイマツでビレイ。たとえセコンドでも壁を登れない、もしくは時間のかかり過ぎは敗退を意味するのは自明である。もしかすると今回のクライミングが最後になるかもしれない。ルートそのものは昔登っているので、概略は分かるがほとんど何も覚えていない。一通り研究したが不安は募る。アプローチで、下山で迷惑をかけるだろうか。リーダーのHNから一言「駄目なら言ってください、途中からでも降りますから」と釘を差された。年寄りだからといって手抜きはしませんということだ。緊張はしていないがイメージだけでは登れないのも確かだ。
12月14日
8:30十勝岳温泉駐車場発
各クラブの訓練が今週も行われるため20台ほどの車がある。今回は初日にクライミングを行い、次の日訓練の予定。アプローチはスノーシューの私を除きスキーなので、どうしても遅れがちになった。9:20旧噴デポ地点到着。北西綾へ向かう三人と別れ、スノーシューとスキー、ストックをデポし真上の化物岩へ向う。天候は良いとは言えなく、化物岩がようやく全体が見え、八つ手岩は霞んでいる。正面壁は全く見えない。カリカリの場所とハイマツで抜けてしまう場所があり、なかなかきつい。30分程度で左ルート取付きに到着した。ハイマツでアンカーを作りビレイ。旧噴デポ地点では問題なかった風が、ここまで来るとかなり強い。大昔、あまりの強い風にⅮ尾根を這って降りた経験が脳裏に浮かんだ。
1P目 雪の量は例年より少し多いが凍っていないのでアックスは効かない
化物岩左ルート
1、2P目 45m
リードはすべてHNが行ない、SM,TKの順で登る。本来、25mくらい先にあるアンカーでピッチを切るが、雪田上部のアンカーまでロープを伸ばすことにした。
ここは、まさに積み木を重ねた浅いルンゼだが粉雪が積もり、ベルグラがほとんどない。ということは、アックスが効かないので、引っ掛けるか、または手登りとなった。水平クラックにカムはあまり有効ではないらしく、トライカムを多用していた。手に確実性が無いのでアイゼンを外さないように慎重になる。中間地点中央に岩の突起が二本出ていたが、ここは両手で抱え込み乗り越えた。
アックスが効かないのでドライのように引っかける
すぐ目の前に大きなチョックストーンがある。右にかわすため、右にアックスを決めたら立ち上がり、左手で岩を押さえて乗り越えた。すぐ上はスラブで難しい。右へトラバースすると雪田上部でビレイするリーダーが見えた。あとは歩いてアンカーにたどり着く。「SMさん!楽しんでいますか?」声をかけられた私は「楽しんでいるよ!」と力無く応えた。ラストのTKさんは素早く登り1.2ピッチ終了。後は3ピッチのみ。
3P目 40m
中段の雪田は、北西の風がまともに吹いているので、まつ毛が凍りつき視界が狭い。凍傷を避けるため左に顔を向けざるを得ない。厳冬期のカミホロでは、風速は時速20~30メートル程度になることがある。風はさらに強くなり体感気温はマイナス35℃を楽に超えているだろう。油断すると一発で凍傷だ。グローブはmont-bellのインナー付きにしたので安心だが、時々指先を確認。上から下まで保温に気を使った装備であるが、ビレイで待つ間時々震えが来るほど寒い。ときどき体を動かす。3P目はカラカラの岩ではなく土が凍りつき、アックスが気持ち良いくらい決まるので快適だ。ルンゼを真っ直ぐに登ると傾斜が緩み、アンカーでビレイしているリーダーが見えた。視界は悪くホワイトアウト寸前であるが、不思議なことに化物岩ピークの風は下段ほど強くない。
下降地点までリッジを進む 視界は20m程に落ち、ホワイトアウトに近い
体を南へ向けて風を避け、お茶と行動食タイムとした。旧噴デポ地点へ向け下降するため、八ツ手岩手前の下降地点まで歩くが、雪庇があり踏み抜きの危険が高い。HNが後向きダブルアックスで降りていき私も続く。その下は雪が少なく岩も露出しているので、アイゼンの引掛けが怖い。ここで転倒すると下まで数百メートル落下してしまいお陀仏間違いなし。急ぎたいけれど急げない。そんなジレンマがアルパインクライミングの醍醐味だと誰かが言っていた。私にそんな余裕は当然ながら全くない。二人を持たせつつようやく14:30安全地帯のデポ地点に到着したがヨレヨレは隠せない。緩やかな下山路であっても足が進まず立ち止まり休んでばかりで申し訳ない。27年ぶりに本チヤンを登れた喜びがあるにしても、自分の限界点はとうに超えたことを自覚してしまった。それにしても「カミホロはやっぱりカミホロ」であった!
下降尾根の出だしは急傾斜の為ダブルアックスの後ろ向き
装備の問題点
冬季登攀本チヤンが27年ぶりということになる。しかも荒れるカミホロであり、近年雪が少なく、天気も良いことが多いのだが、今年は様子がちょっと違う。全国的に寒波で12月7日あたりからずっと寒気におおわれ、暖かい日が全くない。過去の経験から油断をすると必ずしっぺ返しに合う。もちろん一番気を遣うのは寒気対策であり、手を抜くと凍傷を手痛く負ってしまう。
今回の装備に、それなりに気を使った。冬靴はザンバラン・マウンテンプロ、手袋はモンベルの2in1アルパイングローブを装着したのは正解であった。それでも細かな作業時に手袋を脱ぐ場合、迅速な行動が要求されるのだ。上下にエクスペディションの下着、中間にフリース、下はライナー付きのパンツ、アウターにアルパインパンツ、上はハードジャケット、その上ダウンのビレージャケットを着込む。これでようやくマイナス30℃を下回るカミホロでクライミング出来るのだ。
とは言え、夢中で行動していると、いつの間にか凍傷になっている可能性が高い。特に手の指先、頬、目の周り、時として足の指も注意が必要。アルパインクライミング時にはビレイのため、その場に立ち込みしばらく動けない。仲間が互いに相手の様子に気を遣い、注意し合う事がぜひとも必要だ、それがパーティ全体を守ることになる。
凍傷対策は万全にしたが、まつ毛が張りつぃてしまいそうだ
クライミングの中で気になった事がある。アイゼンがグリベルのニューマチックのセミワンタッチなのだが、バンドをしっかり締めたはずなのに、いつの間にか緩むのだ。再び締めてもピッチを切るたびにまた緩む。右は緩まないので、締め方なのか、構造的に問題があるのか確かめて、後日対策を得たい。万が一アイゼンが外れたら間違いなく動きが取れなくなるだろう。あとはMSRライトニングアッセントのバンドである。マイナス20℃位になると柔らかなゴムも硬くなり、非力な私ではきつく締められない。通常標高1000m未満の山までしか使っていなかったので、その事に気が付かなかったのだ。今後、バンドの穴に紐を通してバンドを引く等の工夫をしなければならない。様々な課題が出てきたが、私に次が有るのだろうか?