芦別岳 旧道~新道 2011年

芦別岳 旧道~新道

2011年6月24~25日

芦別岳に来たのはもう10年前になるだろうか。定年退職してから空白の10何年間を取り戻すべく山に登り始めているが体力は元には戻らない。
山部に到着し、旧道へ取りあえず行ってみると、むかしなかったゲートが出来ている。これは鹿の食害防止なのだろうが大げさな長大な設備だ。
太陽の里前には懐かしい童峰小屋がそのままで残っていることに驚く。

  1986年頃とほとんど変化がないのではないか(2011年現在)

            夕日に浮かぶ夫婦岩

03:53起床、天候は快晴で雲ひとつない。
直ぐに旧道登山口に移動し04:10スタートする。薄暗い登山道を歩み始める。笹に覆われており登山者の少なさをあらわしている。
歩き始めて10分くらい過ぎた頃だろうか、突然右手のヤブからものすごい勢いで背の低い動物が斜面を駆け上っていくではないか。
ユーフレ川の沢音で気配を感じることが出来ないし、相手にとっても同じことである上に登山道にはブッシュが覆いかぶさり見通しはほとんどない。
あっという間の出来事で言葉も出ない。まだ歩き始めたばかりで、と思う。

驚いたのなんの、どこかにいるだろうとは考えていたが、入口で出会うとは思わなかった。また、ユーフレ川沿いに進むので、川音が人の気配を隠すかもしれないという危惧が当った恰好だ。
しかし、クマが出る覚悟できていたから今更引き返すわけには行かない。
ドキドキしながら鈴をことさら大きく鳴らし、先に進むスピードが急に上がったのは言うまでもない。
一瞬相手がきずいて逃げていったが、面と向ったらこちらに勝は全くないのは自明である。単独であるが故に危険は承知だが熊とは会いたくない。
ここでクマに食われたらいい笑いものだなと真剣に考えてしまうが、歩いているうちにそんなこと考えている余裕はなくなりひたすら先を目指す。
面倒で意味のない高巻きは登り始めの高さまで結局降りてくるので疲労感が倍になる。

  いつからあるのか記憶にないが、いつもあるような気がする

5:15ユーフレ沢と夫婦沢の出会いに到着。まあ時間的には悪くはない。
 夫婦沢に掛かる大木の丸木橋は昔のままなのだろうか、それとも新しく倒れて出来たものなのだろうか?
梯子を上るとユーフレ小屋へは行かず、右手の道を辿る。
昔は夫婦岩へ行くので、登攀具だけで10kgくらい余分に持っていたから、随分パワーがあったものだなーと振り返ると感心するが、今は雨具、ツェルト、水、食料、ヘッドランプ、地図くらいなのに歩くスピードは変わらないということは、歳をとったということだ。

次第に高度が上がり、沢を振り返ると山部の町が見え始まる。何も見えないし、暑いのでここは我慢のしどころだ。ここから北尾根までは相当荒れているので覚悟を決める。朝寒かったのだが、体温が上がってきたのと気温も次第に上昇してきたので防寒着を脱ぐ。しだいに高度も上がり左岸に槇拍山が、左前方には懐かしい夫婦岩が姿を現した。

        夫婦岩、デルタの草付きも懐かしい

6:15 しばらくして夫婦分岐が現れたので取りあえずほっとする。
7:10北西壁が丸見えの場所で休憩する。
懐かしい、何度ここを登っただろうか、北壁カンテ、北西壁ダイレクト、日鋼ルート、ナイスミドル、ウオーターロード、大凹角、南西カンテみな覚えている。
特に昼から北壁カンテをヘッドランプも何も持たずに登り、夫婦岩ピークで暗くなり、真っ暗な中央ルンゼを手探りでアプザイレンし、その上落石にあった苦い思い出もある(尻に一発当って痛かった)。雪洞が地震で潰れそうになり肝を冷やしたこと全ては記憶の彼方である。
 あの頃はアホだったから、怖いものは何もなかった。どこでも攀じれる気がしていたものだ。今では赤岩の三級ルートもおっかなびっくりで情けない。
本日の夫婦岩はまだ誰も取り付いてはいないようで静かである。

  登山禁止になったキリギシ山はロストワールドになってしまった

7:25 ようやく北尾根に出た。ここまで来ると森林限界を過ぎるので景色がずいぶん良くなるので気分は爽快だ。キリギシ山が目に飛び込んできた。
今は登山禁止になってしまったが昔は我々登攀倶楽部の庭みたいにして遊んでいたものでだった。左からS峰、C峰、N峰とノコギリの刃のように並ぶ姿は独特。
岳友会ルート、フラワーロード、登攀倶楽部ルート、コカンパワールートなど懐かしい。
貴重なアツモリソウなどの高山植物が盗掘の為、絶滅寸前の頃、クライミングをしながら盗掘者が設置した固定ロープを根こそぎ撤去したこともあった。
ここからしばらくのぼりとなり芦別岳本峰はまだ姿を現さず、道は笹とハイマツに覆われており、歩きにくいことはなはだしい。
全く足元が見えないところも多く難儀する。雪渓が出てくると歩きやすいのでホッとする。東に慎拍山、北にキリギシ山、西に芦別岳本峰とすべてが見渡せる。
残雪があるため歩行も楽だし時間も短縮できるので思ったより早く頂上に到着できるかもしれない

    槍ヶ岳を超えているんじゃないか、と思うほど恰好が良い

8:10 芦別岳本峰がまるで槍ヶ岳のように尖って見える地点に到着。しばし見入る。これだ! これが見たくて来たんだよー!と大声で叫びたくなるほど格好が良い。槍ヶ岳にも負けない力強い三角錐は稜を従え聳え立つ。
ここから常に姿を見ながらキレットを越え、不安定な登山道を進むがアップダウンがはげしく消耗がひどくなってきた。
しかし、視界は良いし、気持ちの良い風が吹き渡り、気分は最高。
頂上より一気に流れ落ちているのが一稜で、難しくはないが気分のよいルートだ。次第に大きくなり、力強さを増す本峰。それに反比例して脚力を失う私。

      本谷上部の雪渓から見る芦別本峰は形を変えた

尾根が落ち込んでいるキレットは1984年6月初めて本谷を遡行した時、方向を間違って北尾根に入り込み到達した地点である。
 あの時は単独で雪渓も初めてだし、ひたすら本谷を進めば本峰に到着すると思い込んでいた。そもそも前年10月に羊蹄山に登ってから始めてた山登りなのだから何も知らないし、本から得た知識のみで実際のことは出たとこ勝負であった。
 その結果、最後の詰で大きな間違いを犯してしまう。遡行する登山者が数人単位で歩いているのだが、皆なんとなく自信なさげであたりを見渡している。
 当然のことながら私も自信は全くないし、地図を見ても解析できないので周りの動向を注視するばかりであった。
 ワンパーティーが左岸に向って登り始め、次々にその後についていく。
 私もその後を追うのは言うまでもない。北尾根上に出た時点で直ぐに間違いが判明したが時すでに遅し、本峰直下のお花畑まではしばらくあるのでがっかりしたが、自分で判断せず人の後を追うとこうなるのだという事をしっかり学んだ出来事でも有った。 

   本峰西壁をクライミングするパーティ 恰好が良い

27年前のそんなことを思い出しながらお花畑に到着すると、2人パーティーが本峰西壁に取り付いているのが目に入ってきた。
アルパインクライミング最高の舞台だから、気持ちがよさそう。
しばらくお手並み拝見で座り込んで眺めていたが時間がないので頂上に向う。
10:34芦別岳頂上到着。6時間24分は早くも遅くもないが出来れば6時間を切りたかったが、贅沢というものだろう。今の自分にとって厳しい登山道でしたがしかし、天気も良く、風もなく最高の登山日和。しばし360度の展望を楽しんだ。

              頂上から山部を見る


11:20 頂上を後にし、雪渓を下るのだが、思いのほか傾斜が強く5mほど滑ってハイマツに衝突し痛い目にあう。軽アイゼンを持ってくればよかった。
 滑り落ちるようにして雲峰山まで降り、後はすっかり露出した新道を気持ちよく歩くが次第に歩みが遅くなる。 15:30 新道登山口到着。