小川山 マルチピッチ 2024年


小川山マルチピッチクライミング  2024年

やっぱり老後は楽しいルートだ

小川山 西股沢右岸「烏帽子岩左稜線」18P 5.8
お殿様岩の大貧民ルート5P 5.8
小川山レイバック5.9

昨年2023年10月にお世話になったKガイドさんに再び小川山でマルチピッチクライミングでお世話になることになった。

5月22日(水)

廻り目平の駐車場はガラガラで貸切状態となっていた。9:30駐車場を出て、林道を歩いて行くと砂防ダムが出てきた。堰堤の上流側を飛び石で渡渉。金峰山からの雪解け水のせいか水位はやや高めで、浅いが渡渉しなければアプローチに入ることが出来ない。裸足になって思い切るが、水に入り飛び上がるほど冷たい!わたり終えたら、30秒くらいしびれて動けなかった。油断すると苔の部分で転倒してしまうと、やる気を失う。最初の核心はここか。

   ガレに出ると烏帽子岩が見えてくる  右のブッシュに入る

西股沢右岸に入って上流方向へ歩くアプローチは取付きにトラバースする地点がわかりにくい。オーダーはガイド登山では当たり前だがオーダーのリードはすべてガイドさん、フォローは客となっている。

1P目
巨木の右手に薄暗く湿気ったクラックがあり、一応ジャミングを使った。
それなりに立っているので侮れない。続く短いクラックは容易だが、クラックの上から右にトラバース気味に位置を変えるが湿気のため滑る。全く難しくないが慎重に登る。
小川山は残置物がスラブやフエイスにしても非常に少ない。クラックが多いので当然にしても、赤岩であれば古いハーケンやボルトであふれている。
開拓された年代がここでは1980年代あたりからだから、ボルトが多用された鉄の時代を知らない若者によるルート作りだからに違いない。
ナチュラルプロテクションによるクライミングはとても気分が良い。

2P目
正面のダブルクラックを登る。といっても、プロテクションはカムを使うものの、登り自体は豊富なホールドを用いたフェースクライミングです。クラックを抜けたら、安定したバンドを右へ進んで太い木でビレイ、森を抜けるので暗さはなくなる。しかし、壁は意外ともろく油断はできない。

         クラックは湿っているがジャミングは効く

3P目
少し左手のクラックを登り、バンドを右上していく。ここも易しい。
バンドの行き詰まりから頭上に見えている壁を登る。出だしは何ということもない易しい階段状のクラック、そしてそこそこ高度が出てくるとともに傾斜が増し、ホールドが乏しくなってきた。アンカーは自分の判断で、立木か岩塔にスリングをかける、後はクラックにカムで作るといったアルパインスタイルで楽しい。

4P目
易しいクラックから5.8のフェースになる。ここで初めて残置ハーケンが二本出てきた。このルートに限らず、小川山全体に残置は非常に少ない。クラックが主体のエリアとはいえ、素晴らしい。クライマーの意識が高いことを示しているのではないだろうか。
まもなく傾斜が落ち、リッジに出た。ここからは烏帽子岩左稜線の全貌がよく分かる。

5P目
リッジ歩きであり易しい。風が出てきたので寒くなりバーサライトジャケットを上に着込む。壁登りとリッジ歩きの繰り返しは、不動リッジを思い起こさせる。単純に比較はできないが不動を三回繰り返し登るというと、判りやすいイメージだ。
そりゃあ時間はかかる。ルートファイディングはこちらの方が難しい。

    残置ハーケンは珍しい ボルトはルート上にあまり見かけなかった

ふりかえるといつの間にか眼下には廻り目平と周辺の岩場が一望の下に見渡せ、すこぶる快適だ。マルチピッチクライミングの醍醐味であり、高齢クライマーの仕上げとして最適なルートである。
いま、5P目を終ろうとしているが、まだルートの三分の一しか登っていない。さすがに18Pもあると登りごたえもあるし、時間も気にしなければならない。
ガイドはどんどん飛ばしている。アンカーに私がたどり着いたらすぐに解除して次のピッチへと上がっていった。

パーティの人数にもよるが早いと5時間くらい、三人で遅いと10時間を越える場合があるらしい。そうなるとヘッドランプ登場か、エスケープして懸垂しなければならない。
ガイドの使命としてお客さんに満足してもらうには、それは避けたいし、完登以上の何ものでもないだろう。そのためには、簡単ピッチでは急がねばならない。
それがわかるから、休憩は水を飲むくらいでほとんど休まない。
ついて行くのは大変だけれど、天気は良いし、リッジは美しく大きいので楽しい。

6P目
カンテ左から上がっていく。丸くなった脆い岩をまたぐように超えていく。
このルートに人工のアンカーはほとんど無い。記憶では懸垂地点にあったくらいかもしれない。ということは登って要所で立木、ピナクル、カムなどのナチプロで構築することになる。アルパインクライミングを勉強するには最高の環境だ。しかも18Pと長い。アプローチを入れると、最低7時間くらいかなと思った。

7P目
傾斜はゆるく、易しいフェースサイドの立木を使い登る。ワイルドだ。

8P目
リッジの右から取付き、易しいため、ロープを伸ばしてピッチを切るパーティもいるようだが、右往左往することが多いので短く切る。

9P目
出だしはチムニーだが、すぐに左のカンテにでてテラスでピッチを切る。

    水平トラバースだが難しそうに見えるが一歩踏み出せばOKだ

10P目
コーナーを登って岩尾根の左側に出るとすぐに、トポに"一瞬怖いトラバース"と説明されているバンドがありここが話に聞いていた問題のトラバース。よく観察しないで突入すると、被っている壁で動けなくなるらしいが、まあ話だろう。足下を見るとちゃんとスタンスがあり、ぶら下がるように一瞬左へ身体を振ると終了だ。本当にワンムーブなのであっけない。

11P目
ここからは70cm幅のリッジがきれいに右上へと続き美しい。
この辺りのかつての造山運動のダイナミックさを想像させてくれる幅の細い板状のリッジの上を渡って、向こうの岩稜を右上へ登っていく、これまた露出感のあるピッチ。ロープいっぱいまで伸ばしてピナクルで支点をとって振り返ると、相当の高度感だ。
ノーピンであるが落ちることはまずあるまい。

           気持ちの良いリッジは簡単だ

12P目
時間は13:30となり、ようやく休憩となった。10:30のスタートなのでほとんど休まず登って来たので息をついた。やさしい壁とリッジ歩きではあるが、ルートファインディングで迷ったり、メンバーが3人以上なら5時間どころか、10時間を超える例もあるらしい。そうなれば完登どころか五の盾のコル、四の盾のコルあたりでエスケープ撤退になる。

13P目
このピッチは傾斜こそ少し寝ているが一直線に伸びたハンドクラックである。今回は苦手クラックの克服トライであり、ジャミンググローブを活かす場面だ。ガイドが登っていく姿は躊躇なく美しい。手さえ決まれば足はそれほど難しくない。
ハンドサイズのクラックは素直でよく決まり、問題は無かった。

         ハンドジャムが良く決まり気持ち良い

            ゴボウではありません(笑)

クラックを登りきったところが烏帽子岩本峰の一角で、そこから踏み跡を進むと右側の壁にかつての開拓で設置されたらしい終了点が残されていた。これを右に見てから左方向へリッジをノービレーで懸垂地点まで歩く。下っていくと、木にスリングが巻きつけられカラビナがセットされた懸垂下降点がある。

懸垂一回目利尻のP2懸垂と同様、素直に降るとリッジを外れてしまうので、左へへつるように降りた。

           ここまで来るとルートの終盤だ

14P目
クライムダウンするか、岩の縁のクラックをトラバースするかだが、時間のかからない後者を選択。難しくはない。
正面には四の楯とラストの五の楯がよく見える。どちらもワイド系のクラックだが、ラストの五の楯ワイドクラックは上部が狭くなっており、困難を極めるらしい。ザックはおろか、ヘルメットを外し股から下げて上昇しなければ抜けることはできない。 
時間はあるので最後まで突入する事にした。

15P目 特筆無し
16P目
顕著なワイドクラック。出だしのムーブを組み立てるのに時間を要したがどうにか突破すると、続く階段状のフェースの上が、最終ピッチのチムニーの基部になる。見るからに易しい超ワイドなクラックを抜けるだけだ。

17P目
ラストの手前の易しいフェース。特に問題はないが、最後のワイドクラックが頭上に迫りプレッシャーがかかる。

18P目
ガイドさんが核心の抜け方をレクチャーしてくれる。
体から引っ掛かりそうな物は全てぶら下げ、体の方向は途中で変更は困難故に、突入する寸前によく考えること、そして突入したら、ひたすら全ての手足から背中、腰を使いジリジリ上がるだけとのこと。ああする、こうするといった説明は不可能な世界らしい。
間もなくゴールがあり、自分の番となった。核心部までは、この私でも難しくなく、その上も決して不可能には見えない。核心手前でレクチャー通り、ザックにヘルメットを入れ、ギアラックも脱ぎ、全てを股にぶら下げた。

              見た目より相当難しい 

プロテクションのキヤメを一個ハズした地点までは良かったのだが、二個目のキヤメには手が届かない。
体をクラック深く進入させる必要があるのだが、そうすると上昇が不可能になるのだ。やっとの思いでキヤメを外すと息が切れ一旦休憩となる。落ちないが、上がれない。上がれても、1センチ2センチの世界で、さっぱり進まない。

       最後の最後に泣きました

こうなると上から支えてもらい、荷揚げ状態となった。核心部はたったの1メートルだが、ベルギー岩の阿鼻叫喚を連想してしまう。苦しまぎれにタイブロックを取り出したが「アッセンダーを使わないで頑張ってください」と上から声がかかった。
良く見ているなと思い、安易な道へたどることをやめた。
先ほどから横目で見ていたスタンスに右足が乗り、左のカンテ方向に体を上げることができ、ようやく核心部を抜けた。疲れた。
時計を見ると15:35、取付きからちょうど5時間となり、標準的なタイムだ。

登攀具をザックに収め、直ちに左稜線の裏側を歩いて下る。
トータル7時間は早いのだがスタートが遅かったので、他のルートには行けない。もっとも体力的に限界ではあった。

5月23日(木)
今日はお殿様岩の大貧民ルート5P 5.8と小川山レイバック5.9の二本登り、韮崎駅15:18発の新宿行きのJR特急列車に乗ることにした。親指岩には有名なスーパーイムジン5.12cがあり、とても登れそうにない。

大貧民ルート 4P 5.7
1P目
微妙に難しい湿気ったクラックを左上し、大きな立木でビレー。

2P目
右上する巨大フレークを右上していく。難しくはない。盛り上がった岩に上がりビレー

3P目
ここから傾斜の落ちたスラブ。見た感じホールドは無い。スラブに上がれたら足はステアリングでいけるが、どうにも上がれない。すぐ横の枯れた立ち木はチョンボかと思い、使うことをためらっていたが、我慢できず足を乗せスラブに上がりアンカーまでは困難ではない。後日記録を読むと皆使っているじゃあないか! 素直に使えば良かったです。

体格の良い人は通過できないと噂されているらしい

4P目
跳躍しなければならない部分があるが易しい。
いよいよ本日のハイライトである激狭チムニーである。体格の良い人は通ることが出来ないと言われている。通過した人は皆笑い転げているくらい楽しいらしい。
登る前に、まずヘルメットを外し、キャメとギアラック、そしてPAすら引っ掛かるので外して股下にぶら下げた。昨日の左稜線と同じだが、さらに狭くハマったら落ちることは無いが、上がることもできないくらい狭い。核心部に来ると両手をバンザイの姿勢でズリズリとミリ単位で前進しなければならない。下手をすると、人間チョックでこのままだったりにという不安が湧いてくる(笑)とはいえ、なんとかなるもので、抜ける事ができた。思わずガッツポーズが出た。
困難なルートを苦闘するのも良いが、やっぱり老後は楽しいルートだと思う昨今。

小川山レイバック5.9
出だしは少し膨らみ、クラックもシンハンドでジャミングも下手な私は決まらない。何度もトライするが離陸できす頭を捻る。そうだ、名前の由来であるレイバックなら上がることが出来るかもしれないと思い直し、レイバックでトライすると上がれるではないか!

 これはガイドさんだが、自分もそのうち登れそうな予感がする

もちろん、レイバックは長く続けることは不可能だから、出だし1mで立ち上がった。ここから完全なハンドサイズのクラックなので、今回練習したジャミングで休み休み上部テラスに達した。ここで一休みし、最後の上部クラックに入っていく。上部には両壁に適時スタンスがあり、何とか終了点に行けた。5.9とはいえ、今の私にとって練習次第では登れそうとの希望が得れたのは大きな成果だ。

小川山には北海道に少ない完璧なクラックが無数に存在している。今回はおそらく6ピッチくらいはあったので、ジャミングの練習が相当できたのではないか。
無論、マスターしたとは言えないが、クラックでも思い切りジャミングを効かして登れるような気がする。