扇沢~鹿島槍ヶ岳~八峰キレット~五竜岳~遠見尾根 2022年

扇沢~鹿島槍ヶ岳~八峰キレット~五竜岳~遠見尾根 2022年

9月12日

アルプス交通のタクシーに信濃大町竹の屋旅館へ迎えに来てもらい、真っ暗な05:00扇沢へ向かう。暗くてわからないが、籠川に沿った道路はあっという間に高度を上げ三十分ほどで扇沢登山口に到着した。
5:30柏原新道をすぐに歩き始めるが、整備された登山道は石畳で整備された完璧な歩道だ。このような登山道は、北海道を始め北アルプスの中でもほとんど例を見ないので非常に驚いた。当然のことに歩きやすく、どんどん高度が上がり予定時間より早く進む。天候は予報どおり晴れて樹林帯の中を行くので汗もかかずに快適だ。
標高1,620m八ツ見ベンチで一休み。前後する他のパーティも休んでいるが、想像していたよりも数は相当少ないのはなぜだろう。

       石畳のように整備された登山道は快適だ

コロナ第七波はほぼ終了し、あれほど悪かった八月の天候も安定してきた九月、台風15号も沖縄周辺で停滞している現在千才一隅のチャンスにはまった気がする。柏原新道は日陰に終始し涼しい

          柏原新道で唯一のガレ場は短い

9:00種池山荘到着と標準タイムより30分早いことに自分ながら驚いた。
最近山に登っていることに加え天候の良さもあるに違いない。
ここでも登山客は十数人しかいないので快適ではあるが意外に思った。
やはり台風の接近に用心して予定をキャンセルした人が意外に多いのだろう。
自分は遠方より飛行機等の予約が簡単にキャンセルできないので出たとこ勝負だが、他の人々にとって危険な賭けはすることはないのだ。
来週にでも天気予報をにらみながら予定を立て直せば済むことだからうらやましい。
五分も休まず直ぐに見通しの良くなったリッジを行くと、ここから一時間ほどで着く爺ガ尾根道はハイ松があるものの極めて歩きやすい登山道が続いている。
途中より左手遠方のリッジに冷池山荘がガスに煙るように見えてきた。
今日はあそこまで行けばいいのだ。昼前に到着するのは間違いないので午後は全く何もせず、北アルプスの景色と雰囲気を堪能できるではないか。
このような楽しみは営業小屋のある北アルプスでなければ到底味わうことは出来ない。わたしのような高齢者にとって天国のような山域と言える。
 
9:56 爺ガ岳南峰に到着。少しガスっているものの見通しは良く、直射日光が照らない分汗もそれほどかかない。

          布引山方面は雲で覆われていた

ここから北西斜面をトラバースして北峰をカット、冷池山荘に一気に下る。
11:30 冷池山荘に到着。
標準タイムに1.2倍をかけた時間を想定していただけにここまで六時間と標準タイムでこれたことがうれしい。
早く歩けたということは疲れもその分少なく、明日の核心部分への体力を温存できたことでもある。
小屋で宿泊の手続きをすると水は1リットルだけ無料と聞かされ、水資源に厳しい尾根上の小屋の現状が垣間見えた。昼ごはんとしてラーメンを食べたのだがなんとしょっぱくないのだ。生まれて初めてしょっぱくないラーメンはうまくない。¥1100もしたのにすっかり気落ちしてしまった。
部屋は六人部屋を四人で使用し、ビニールで仕切りを設けたコロナ対策がしてある。コロナは災いをもたらしたが、こと山小屋に関して人数制限が設けられたことにより登山者は息が詰まらなくて快適である。

         コロナ対策で定員は少ない

          小屋全体に風が通り気持ちが良い


裏を返すと山小屋経営者は相当大変に違いなく喜んでばかりはいられない。
経営難で山小屋がなくなると困るのは我々登山者なのだから。
部屋で同室になった人から聞いた話ではヘリでの貨物輸送を担う会社が三社から一社に減ったらしい。ヘリの需要が増えたので儲からない山小屋の仕事を避けるようになったとのことだ。そのため物資の輸送が思っているより遅れがちなのだという。なんだか山に来ても世俗の闇を聞かされたように思えた。
今回は七月の重くて参ったモバイルバッテリー約300gを持たないので、小屋の充電スペースで充電させてもらったが、太っ腹なことになんと無料なのには驚いた。ありがたい。まあ充電スペースは今の時代当たり前になったのだろう。
それほどスマホは体に一部であり、切り離すことができないのだ。

      スマホ等電子機器が必携の時代に充電スペースがありがたい

宿泊料金が¥12,000と他に比べて\1,000安い理由が夕食時に判明した。
量的にはご飯も、みそ汁もお代わりし放題なので不満はないがもう少しリッチにしてもらいたかったな。
同室になった方たちと様々な話になったが皆定年退職し山に精をつぎ込んでいた。
どこから来たと問われ、北海道と答えると皆一様に驚くのは納得できない。
自分たちだって北海道の山に行くのと何も変わらないのに不思議な反応ではある。
他の方々は皆扇沢から鹿島槍ヶ岳に登り帰るらしい。自分は八峰キレットを越えて五竜岳から遠見尾根を下ると驚いていた。73才という高齢者だからなのか?

9月13日

早朝05:00頃朝日が上がり始め今日も晴天が約束されたように感じた。
鹿島槍ヶ岳東面も雲が晴れ真っ赤に朝日が照っていた。朝食を済ませ薄暗いうちから歩き始めた。

        鹿島槍ヶ岳東面も雲が晴れ真っ赤に輝いていた

5:30 冷池山荘発。
ここのテン場は小屋の上方五分ほど離れたところに位置しているため、トイレに向かうのは相当不便に違いない。男であれば近くで済ませられるが女性はそうはいかない。
そのためかテントは5張りくらいしか張っていなかった。砕石をまいたような快適な尾根を一時間二十分で布引山に到着。ここに来るまで布引山という名は聞いたことがない。
再び単純な尾根をたどり7:58鹿島槍ヶ岳南峰に到着、すでに五名ほど休憩していた。
鹿島槍ヶ岳は昔から冬の大量遭難事故でよく覚えており、一度は登りたいと思っていただけに考え深いものがある。しかし、今回の縦走山行の最終目標は八峰キレットを越えて五竜岳へ到達することであり、ここからが核心部に入っていくのだ。 
8:54 鹿島槍ヶ岳北峰分岐。頂上直下を北西にトラバースして行くが、すぐに今までとは雰囲気が全く変わり険悪な様相を表し始めた。歩く人が少ないと見え、道というよりは踏み跡となりザレと岩場そしてガレの連続となった。長い鎖はうかつにぶら下がると体が大きく振られてしまうため触るのがためらった。直接岩をつかんだ方がよほど安定する。
 

            鹿島槍ヶ岳頂上は雲で視界無し

           八峰キレットは前評判ほど危険に感じない

鹿島槍ヶ岳北峰から少しずつ高度を下げ八峰キレットに向かっていく。
下っていくと初めて登ってくる人に出会ったがキレット小屋までの四時間の間にその人だけであった。
キレットに向かっていく同じ方向に誰もいないのは不思議に感じる。
それほど困難でも、危険にも思わないがクライミングの経験がなければやはり難しいと思い来ないのだろう。このような良い天気に八峰キレットを独占できることに喜びを覚える。クライミングをやってきて本当に良かったと思える時間だ。
前方はるか先崖の上にキレット小屋が見えてきた。うわさ通り崖になったコルに立っているようで危うそうだ。
見え隠れしていたら大きな岩の割れ目に入っていく。高さは20m程度か、全面植物に覆われている。中間の高さに梯子が水平に設置され、壁には鎖が奥まで下がっていた。写真で見たことのある今回の縦走核心部の八峰キレットである。
しかし、これが核心なのか?疑問がわいてくるのを止めることができなかった。
この先にデンジャラスな部分があるに違いないと、鎖と梯子で守られた安全確実な登山道を進んでいくが、それらしき箇所が出てこない。最後に短い梯子を三本登ると危険だが困難ではない道に戻った。赤岩の体内巡りの方が転落する可能性があるのではないか。
見た目が危険そうに見えるから鎖と梯子で固めたのだろうが、そのために難易度は確実に他の平凡な岩場、ザレ、ガレの方がはるかに高く危険性は高い。
期待ははずれたが面白くないわけではない。

      キレット小屋の立地場所には驚いた すぐ裏は断崖絶壁だ


ふっと眼前にキレット小屋が現れ急斜面を20m降りると9:30小屋の前についた。
四時間である。まさにガイドブックにある標準タイムで歩けたことに安心した。
この時間であれば健脚登山者はおそらく休憩したのち五竜岳へ向かうのだろう。
だって、あと五時間ほどで五竜山荘に着けるのだから。

今日は前期高齢者の私はもう歩かない。日程通りに歩けているのだし、せっかく来た北アルプスの景色を堪能したいのだ。眼前には剣岳がまじかにそそり立っている。今小屋には登山者が誰もいない、この光景は私が独り占めしているのだ。こんな贅沢はほかにあるだろうか?小屋で宿泊の手続きをすると、小屋番の親父の愛想があまり良くないことに気が付いた。コロナが収まりつつあるのに客が少ないためであろうか。
定員80人だが今夜は6人しか宿泊しなかった

       ジオグラフィカは地形図に現在位置が示されるので便利

コーラを頼むとなんと¥600と破格な金額であるが仕方がない、この風景にビールが飲めない私にとって一人コーラで乾杯をするしかないのだ。
コーラ片手に小屋前のベンチに出てみると一人の登山者が汗を拭きながらザックをおろしているところであった。
キャップをかぶり、サングラス、短髪、白いジャケット、黒いザックの若者らしい恰好。
隣のテーブルに座りコーラを飲みながら剣岳を眺めていると「どちらから来られました?」うん?男であると思い込んでいたが、なんと女性の声だ。
サングラスを外した顔は目力のある女性であったことに驚いた。
彼女は今朝種池山荘を出てキレット小屋で宿泊し、明日唐松山荘に向かうらしい。すごいではないか、私より数段パワフルでカッコいい。
ザックも小屋泊まりにしては私の倍もあるような大きさだ。

                 本日宿泊者が少ない
 
11:00冷池山荘からもらってきたちらし寿司弁当を食べたが、これは腹がすいていたせいかわからないがうまい。コメの一粒も残さず食べてしまった。
弁当殻が残ってしまうのはゴミとして当然持って帰らねばならない。
部屋の真下がテーブルであり、登山コースの一部であるので通過する登山者が必ず通る。眺めていると、この日通過した者約13~14名、小屋に宿泊した者6名となり、通過する強者の方が多いことに驚いた。よく考えると時間のない社会人はゆっくり登る時間もないし、9時間くらい平気で歩けるのだから当たり前なのだろう。私も若いころ利尻山西壁Aフェイスを16時間行動したことがあった。当然、ヘロヘロになったとはいえよく行動できたと今思う。若いということは素晴らしい、限界まで挑戦してほしいものだ。 飽きることなく雲海に浮かぶ剣、夕日が沈む剣が静かに暮れていく。暗くなるまでの9時間も眺めてしまった。この小屋には本のコーナーがなく暇つぶしは景色を眺めるか寝るしかない。剣岳に沈む夕日は幻想的

                 剱岳に沈む夕日

スマホの充電コーナーがあるけれど30分\100と意外にする。二回充電した。水も宿泊者も例外ではなく500ml\400だ。
よほど水資源に乏しいのだろう。17:00夕食の時間となったがどんぶり飯山盛りを見て目が点になった。料理も豪華でとにかく高カロリーなのは、さすが難コースの中継地点の小屋だからなのだろう。やっとの思いで食べきったが、他の人はお替りをする豪な者も数人いた。しかも女性でありながら。つくづく自分のローコストローパワーが情けない。
 
9月14日
05:00朝食予定が30分繰り上がり05:00になったので急いで食堂に行くと、そこにあったのは昨晩と変わらぬ山盛りのどんぶり飯であった。
目が点になったのは当然なのだが無理をしてもお腹に入らない。
四分の一ご飯を残して食器を下げたとき調理人から声をかけられてしまった。
「お客さん、どこか具合が悪いのかい?それとも小食かい?」
「小食なんですよ。体調は万全です!」
「それは良かった」
 周りを見渡すとご飯を残したのは私ひとりであった。ともあれ今日も危険地帯を行かねばならない。5:40 キレット小屋発。空が薄明るくなりだした頃トラバースを始めた。
 
すぐに梯子が二本出てきたが難しくはない。尾根はほぼ水平を20~30mの高低差で岩場、ガレ、ザレを繰り返し越えて進んでいくので飽きることは全くない。
これがもし天候が悪く雨であったならば相当困難になるのは明白だ。
行程の三分の一と思われる6:50 北尾根の頭についた時、はるか先に一人の先行者を発見した。追いつくかと思いながら歩いたが結局五竜岳山荘までに追いつくことは出来なかった。当たり前か。

             尾根の途中にある梯子は高度感抜群だ

            7まで来ると前方に五竜岳

7:35 G7まで来ると前方に五竜岳が大きく立ちはだかり登攀意欲をそそる。このような岩稜を好天時に歩ける幸せを心から感じた。
8:05 G5となるとあと一時間で頂上にたどり着くめどが立った。
バットレスの中間に女性が登っており、上からはこちらに向かって四人ほどが降りてきた。スケールの大きさは穂高連峰に近いので楽しい。
八峰キレットは穂高の大キレットに比較すると険しさではかなわないだろうが、大キレットは三時間で通過できるが八峰キレットは9時間近く要するし、しかもエスケープルートが存在しないのでむしろ玄人向けのコースと思う。
とはいえ、最後の登りは疲れがピークにきているので休んでばかりで進まない。
ふっと傾斜がなくなり向こうに唐松岳が目に映った。
 頂上はここから50m程北西にあり三分で到着した。9:30 五竜岳ここにも誰一人いないので独り占めだ。後ろを振り向けば来し方向に鹿島槍ヶ岳、爺ガ岳、鳴澤岳があり、向かう方向に五竜岳山荘、唐沢岳、そして七月に登った白馬岳がすべて見える。
 おまけに剣岳も見えるのだから贅沢の極みと言えるだろう。

                    無風快晴我一人

             白馬岳、杓子岳、白馬槍ケ岳、唐松岳

頂上から五竜岳山荘までの道もなかなかどうして簡単ではない。鎖も数か所存在し、気を抜くと痛い目にあうだろう。すぐそばに見えた五竜岳山荘は急ぐわけではないが近づかない。遠くに唐松岳山荘が見えている。行けないことはないが今回はここで終わりだ。
10:20五竜岳山荘に到着。宿泊の受け付けは11:00からなので表のテーブルでザックをおろし降りてきた五竜岳を振り返った。
受付に手続きをしに行くとどうやら今日も最初の客らしい。そりゃそうだ、10:20に行動を終了する登山者などほとんどいない。
 
私は高齢者で単独、時間に余裕があるのだから徹底して無理をしない。
北アルプスの景色と雰囲気を堪能することを徹底しよう。
部屋は山側で薄暗いが四人部屋を二人で使用するのだから気は楽だ。
広くてとてもきれいな食堂で炒飯を注文し食べたのだが、これが山小屋で出てくるのかというほどうまいではないか。池山荘のまずいラーメンと比べると話にならないくらい段違いだ。ここには書籍が山ほどあるので退屈しないで済む。今日で緊張する箇所はなくなり明日は緩やかな遠見尾根を下るだけだ。着替えを全く持たない今回はタオルを濡らし体を拭いて汗を拭わなければならない。当然タオルは臭くなり洗濯して乾燥室で干した。

             昼に食べたチャーハンはうまい

食事は一人テーブルで快適だし、料理はカレーライスとおかずとシンプルでも豚汁とカレーはお替りオーケーなのでついもう一杯頼んだ。食事を終えて表に出ると雲海に夕日が沈みつつあり最高の景色である。小屋の人に聞いたところ、今週は今年一番の天気が続いているので皆さんはラッキーですとのことであった。
前回の白馬岳縦走時よりデジカメに加えスマホを積極的に使うようにした。
Googleのアルバムをパソコンと同期できるため非常に便利だ。
センサーが1/2.3インチだから解像度が悪いはずだが、内部処理が優秀だから見た目は素晴らしくきれいだ。ただし、ズームするとさすがにデジカメにはかなわない。よけいなお世話というかHDR機能は少しやりすぎなような気がする。
パッと目には平凡な景色も素晴らしい楽園のように映る。これは素人目には美しいのだろうが、写真を長年やって来た人間にとっては余計なお世話になるのだ。
それでも大きく拡大しなければ十分に使える。これを契機にgoogleストレージを100GBに増加させたので爆撮でも当分間に合いそうだ。
今後、アクションカメラを使おうと思うので、デジカメは引退か。

             どこでも同じだが食堂はとても清潔だ

五竜山荘に到着してしばらくすると、登山者が次第に増えて北アルプスらしくなってきた。それでも、コロナにより定員が半分になったせいか、それともコロナにより登山への関心が少なくなったのかわからないが、どこの小屋が満員御礼にならない。
これでは山小屋の経営は厳しいに違いない。
スカスカでゆったりできるのは良いことだが、15,000円という金額は縦走すると馬鹿にならない。特に若い人にとっては大きな負担になる。
まあ、若い人は金はないがパワーがあるのでテントで頑張ってほしい。
とはいえ、天場も3000円もかかるのでなかなか厳しいが。
夜になり八時前、隣のブースの中年男子登山者二人の会話がなかなか終わらない。
他の人々は静まり返っているのだから結構な年齢の社会人であればもう少し気を遣えよと思った。

9月15日
5:40 五竜岳山荘。白岳を越えて軽い岩場を下っていくと7:25 西遠見山に入る。
振り返れば一度も雨は降らなかったし、風もほとんどないし、気温も汗をわずかにかくだけで済んだ。登山者や小屋番の何人かから遠見尾根の下りは結構登り返しがあり、思ったよりきついよと聞かされたのだがどうなんだろう?まあ下りなのだから大したことはない。
木立が結構な高度にもあるのできつい日差しにもさえぎられて快適だ。
快調に下っていくと突然池が現れた。西遠見池である。
反対側から五竜岳を眺めると、そこにはクリアーな鏡面となり非常に美しい。
八方池での反射とは違い、こじんまりとしているし、それほど知られていないのか初めて知っただけに驚きは大きかった。これだから山登りはやめられないのだ。下り始めてから二時間になっても誰とも会わないのもうれしい。

           西遠見池から見あげる五竜岳は迫力がある

八方尾根と違い、登りで六時間ほどかかるし、鎖場があることで一般登山者が敬遠しているのだろうか?いずれにしても五竜岳へは気軽とはいえないアプローチだ。
 
西遠見尾根から、鹿島槍ヶ岳の東面が鋭くカクネ里に落ち込んでいるのが良く見えた。
頂上から1000m以上落ち込んだルンゼには雪渓が白く光っている。
これが最近「氷河」と認定された。
近年、雄山東面の御前沢雪渓、剱岳東面の三ノ窓雪渓、小窓雪渓を調査したところ、氷河であることが学術的に認められた。 その後も内蔵助雪渓、唐松沢雪渓などが次々と氷河に認定されたのだ。

氷河は「重力で長期間連続して流動する雪氷体」と定義される。カクネ里雪渓は鹿島槍北壁の基部、標高2160メートル地点から北東向きに1800メートル地点までの長さ約800メートル、幅約300メートルの万年雪。険しい地形で、長く人跡未踏の地だった。  
1930年、探検家で人類学者の今西錦司(1902~92)が氷河の可能性に言及。55年から58年ごろにかけ、地理学者で登山家、氷河研究家の五百沢智也(1933~2013)が現地入りに成功したが、カクネ里雪渓は「鹿島槍ヶ岳」の奥懐にあって容易に人を寄せ付けない厳しい環境下にあり,その後約60年にわたって調査は行われていなかった。
氷河の調査は長期にわたり、地形的に困難な雪渓でおこなわれければならない。
深いピットを掘り、氷のずれなどを測定するのだ。地味で気の長い研究が実を結んだのだろう。 
六年前、剣岳と立山に登った時には、氷河のすぐ上を通過しながら全く関心を持たず通ってしまったのだ。事前の研究を十分に積み重ねておけば、もっと楽しめたのにと今さらながらに思う。

        カクネ里雪渓は「鹿島槍ヶ岳」にある氷河と認定された

9:15 小遠見山
静かで美しい北アルプスを独り占めで来た今回は、まことに幸いだ。
 惰性で降りていくと次々と登山者が上がってきて、すれ違いに難儀する。
09:30あっけなくゴンドラのアルプス平駅に到着。
汗を拭きながら売店にて、そら豆アイスがうまそうなので頼み、500円玉を出すがあと50円と言われ驚いてしまった。浮世に戻ってきたと、すっかり思い込んでいたが、ここはまだ山の中なのだ。

多くの人の健康や命、そして食い扶持も希望も奪っていったコロナのような疫病が、医療の発展した現代に起きてしまうとは考えもしなかった。
そのうえ、ロシアによるウクライナ侵略戦争も、二月発生から九月になっても終わらないのはなぜなのだろう。つくづく人間の愚かさと弱さを感じる近頃である。 線路をまたいで駅の方向に向かうと、いいところに大黒食堂という大衆食堂があり入ってソースかつ丼を食べたのだが、うまくてもカツとご飯の量が尋常ではない。無理して食べると腹具合が悪くなりそうなので残してしまった。

今年中に後立山連峰をコンプリート出来なかったが、また来年白馬岳~杓子岳~不帰の倹~唐松岳~五竜岳と来る理由が生まれたとも言えるのではないだろうか。熱い日差しを避けながら歩いてバスターミナルを目指しバスに乗った。
思えば前回七月の悪天候に比べ今回はすべての日程が晴天に恵まれたのはラッキー以外の何物でもない。台風も結局沖縄止まりで来なかったし。


北アルプスには11回程来ているのだが、日程は4~6日間がほとんどだ。
その中で雨に降られなかったのは5回だけであとは最低一日は雨にあっている。
北海道から行く老人なので重い荷物は持てない。つまり全部小屋泊まりとなる。
コロナ過となってから小屋代は高沸し、一泊二食で約15,000円が当たり前になってしまった。そうなると停滞して晴れを待つことなど到底無理だ。
 雨も楽しいという年齢はとっくに過ぎてしまい、安全第一で小雨でなければ歩かない。
「雨明け十日」という言い伝えも、異常気象が日常となった今日全く当てにならない。