クライマーズ・ハイ 横山秀夫 文芸春秋
群馬県の架空の地方新聞社である北関東新聞社を舞台に、未曽有の大事故である日航ジャンボ123便墜落を取材する新聞記者たちと、記事を取りまとめるデスク、営業、配送、広告部門の葛藤と駆け引きを描く。全国紙とのスクープ争いは熾烈を極めるのだ。地方新聞社であっても、その内実は、部署と部署・人と人とのぶつかり合い・せめぎあい、そして潰されてしまう者たち。それらの群像を書いた物語であり、決して山の物語とはいえないが、そんなことは気にならないくらい引き込まれていく。
「クライマーズ・ハイ」とは、登山者の興奮状態が極限まで達し、恐怖感が麻痺してしまう状態のことである。と本文にあるが、実際にはそのような状態になることは、少なくても私にはない。いくら興奮で極限状態になろうが、頭の片隅には冷静なもう一人の自分が居るのだ。どこまで行けば限界を越えるのか、限界を越えるとどうなるのか計算をしている。そうでなければアルパインクライミングの世界で生き残ることは出来ないだろう。だから「クライマーズ・ハイ」という言葉は仲間内では一度も聞いたことはない。また、衝立岩正面壁とあるのは、おそらく雲稜第一ルートと想像するが、エイドの上に残置が腐ったものが多く、抜けたらフォールだ。十五年ぶりに取り付けるほどやさしくはないと思うのだが、どうだろう。舞台設定が無理筋と思うのは私だけだろうか?
もっとも、クライミングは付け足しに過ぎないので物語には、ほとんど絡んでいないが。